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しかし、この本はちょっと違った。「東京都知事選に敗北して『成仏』したのだ」と著者はいう。著者がマッキンゼーを退職した翌年1995年、青島幸男氏に大敗した東京都知事選挙のことである。
そして、50代の読者にも『成仏する』ことを勧める。著者のいう『成仏』とは、もう50代になったら、出世欲を捨て、会社中心の生活をやめ、奥さんに見栄を張るのを止め、自分の人生を楽しめ、という趣旨である。具体的には、『転職するなら、2段階ぐらい格下の会社で活躍した方がいい』、『悩んでもしょうがないことに悩むな』、『スタープレーヤーではなく、野に咲く花として生きる』などのアドバイスとなる。なるほど、そういう考え方もあるのかなあ、と思う。
こうして本書を読み進めると大前氏は生まれ変わったかのようにも感じられるのだが、例えば本書後半で、『僕は講演旅行もいまや行きたいところしか行かない。上海は何度も行ったことがあるから、上海で講演を頼まれても断る。今年行くのはトルコとブラジルである。ドバイでの講演の話も来たが、ドバイで建設中の水中ホテルが完成してから行きたいので、『来年ならいい』と答えた。』という。こういうの読むと、やっぱりこの人はエリートだなあと思う。この人の『成仏』と我々凡人の『成仏』とは随分違うんじゃないか。
高度成長期の原動力となったこの世代は、特に人口が多いことから、出世競争も厳しく、バブル崩壊では真っ先にリストラの標的になったりして、がんばったわりには辛い思いをしている。会社で報われず悩んでいる人もたくさんいるはずだ。
そして、余りにもがんばり過ぎた人は、もはや報われないと薄々気づいていても、頑張るのを止めることができない。止め方がわからない。がんばることを止めると人生が終わってしまう。そんな脅迫観念に囚われている。
もう、いいじゃないか。
本書はそう言って、がんばってもがんばっても報われなかった50代の肩をやさしく叩く。暖かいまなざしを向けるのである。
まず、あきらめろ、と冷たく言い放つ。報われるべき人は20代、30代で頭角を現している。50代でまだ足踏みしているようなら、もう無理なんだ。しっかりと目を開き、自分の立ち位置をよく見つめて、そしてスッパリあきらめろ、成仏せよ、という。
つぎに、あきらめたところで生活の心配はないのだ、という。50代は年金でも住宅ローンでも「すべり込みセーフ」だ。3000万の貯金と30万の年金があれば、悠々自適の老後がおくれる。だから間違っても定年後、退職金をつぎこんで起業などしてはいけない、という。
そして、だから残りは好きなことだけやる人生でいい、それができるのが今の50代なんだ、と励ます。好きなことを見つけて、はやく手をつけよ、それも読書とか、そういうのではなくて、もっとアクティブなのがいい。いろんな人との交わりがあるものがいい。遊び仲間をたくさん作ろう、という。
本書は、人生の勝者とは?という根源的問いへの、大前流の回答にもなっている。
金じゃない、地位じゃない、そんな世間的な価値を得た人のことじゃない、他人との競争で勝ち残った人のことでもない、ただ、やりたいことができた人、それが「勝者」なのだ、と大前は言う。
やりたいことは人それぞれ皆違う。だから、やりたいこと、好きなことができれば、100人が100人、皆、「勝者」になれるのである。今からでも遅くない、思い込みを捨てて、一からやり直そう、そしてどうせやるなら人がなんといおうと自分が好きなことをやろう。これが大前氏のいう「人生のリセット」である。
大前氏は、ジェットスキーにマウンテンバイクにスノーモービルと、すきなことを思いっきり楽しんでいる上に、実は世間的な価値(金や地位や名誉)もしっかり手に入れている。それがやや妬ましく、素直に耳を傾けられない、という気持ちがなきにしもあらずだが、しかし、大前氏が金持ちだろうが、貧乏人だろうが、言っていることは間違っていない、と思う。悩める団塊の世代に向けた応援歌であるとともに、大前氏自身の人生賛歌でもある。
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