難しい。というのもかなり強引な論調が所々目立つからだ。例えば宗教の興りについて、「言語がなければ宗教は伝えることが出来ないから存在しなかった」というのはまぁいいとしても、「言語が誕生すると宗教はすぐに発生した」というのは飛躍ではないだろうか。私もその推論は当たっているような気がするが、私が知りたいのはなぜそういえるかという「根拠」だ。著者は根拠を示していない。
人種問題についても疑問がある。彼は人種は「生物学的種だ」と述べる研究者に肩入れし、「人種は政治的概念に過ぎない」と述べる従来の研究者を「独りよがり」と切り捨てている。しかし生物学的種とは(一般的な定義では)「互いに交配できない生物同士」を言うのであって、人類を生物学的種にするには定義の書き換えが必要だ。さらにその概念が必要な理由について、民族によって薬剤への感受性が異なるから、と医学的な理由を挙げる。しかし人種問題とはそもそも「外見に関わる少数の遺伝的性質で人を分類することの不合理さ」だ。薬剤感受性が問題なら投薬前に検査をすれば良いではないか。差別や偏見に口実を与える可能性を考えれば、生物学的種の定義をわざわざ書き換えるデメリットは大きいのではないか。本書を読む限り彼は人種差別主義者だという印象は受けなかった。ただセンセーショナルな発言をして注目を浴びたかったのだろうか?
他にも根拠の提示が必要なところで「それを支持する証拠はある」だけで済ませてしまったりと、信頼性はあまり重視されていない印象を受けた。
ただ話題は広いのでその点は評価したい。「人類の足跡 10万年〜」はストイックに出アフリカ以降の人類の移動ルートを追いかけていたが、こちらは話題が広いので(信頼性に目をつぶれば)こちらの方がおもしろく読めるのではないだろうか。