3歳で視力を失った男が46年ぶりに視力を取り戻した時、その人の身には一体何が起きたのか?−主人公(マイク・メイ)と家族・友人・医者/研究者にまつわるヒューマン・ストーリーを縦糸に、視覚の"不思議さ"に関するサイエンスを横糸にして、メイ氏の数奇な半生に迫る極上のノン・フィクションです。
冒頭に「勇気をもって挑戦すれば一時的に足場を失う。だが挑戦しなければ自分自身を失う」(キルケゴール)が引用されていますが、これはメイ氏の生き方そのものです。たとえ目が見えなくても「冒険心」と「好奇心」を頼りに挑戦を続けてきた男が次に挑戦したのが視力回復手術。視力が回復しても、実はその後も山あり谷ありなのですが、挫けそうになっても「道は必ず開ける」と信じて生き抜く姿に感動します。そして、そんなメイ氏を支える人々との心の交流を読むと、人は決して一人では生きていないんだな、と改めて思います。
本書の素晴らしさは、そんな男の数奇な人生のノン・フィクションだけで終わらせない処です。「視覚とは何か?」に関する説明が素人でも分かるように随所に散りばめられていて、知的好奇心も同時に満たされるのです。「モノを見るという行為の多くの部分は予備知識と予想を土台にしている」という記述を読むと「物事は心で見ないと良く見えない。一番大切なことは目に見えない」(星の王子様)を彷彿させます。しかし"心で見る"が故に錯覚が生じる事実も実に興味深い。これって「モノを見る」ことに限らず、"認識する"こと全般についても言えることですね。(例:文章を読む≠文章を味わう/行間を読む...)
「
妻を帽子とまちがえた男」「
火星の人類学者」(オリバー・サックス)に興味を持つ読者なら本書も楽しめます。本書でチラッと登場するグレゴリー氏の「
脳と視覚」もトライしようかな?