刑務所に服役中の天才少女ジェニーが主人公ながら、視点はピアノの老教師トラウデの側に置かれています。
二人の関係は、普通なら心のふれあいがテーマになりそうなものだが、二人は決して交わりません。寒々とした刑務所を舞台に、互いに別の場所に魂を置き去りにしてきているようだ。殺人の罪を着せられている人間が、そう簡単にピアノ教師に心を開くわけが無いわけで、そのほうがむしろ自然。その上で、少しずつ心を開いていき、互いに共感する部分も出てくる。そのあたりの描き方が上手い。
シューマンやモーツァルトのピアノ曲だけが二人をつなぐ。一瞬近づいたかと思うけれど、その分弾きあうように反発する二人。しかし、音楽という一点においてのみ共通言語を見出す。いや、それも違うかもしれない。「音楽に対する情熱」においてのみ理解し合える、と言った方がより適切か。
そして、話題になっているラストの4分間の演奏です。映画で“演奏の巧さ”を描くには、演出というかアイデアが必要なわけで、ピアノのプロからピアノのピの字も知らない人まで観ている人を『スゴイ!!』と思わさなければなりません。その意味では、その演出は大成功ですね。まぁ、ちょっと反則技ではありますが。
本当に弾きたいもの、自分の心からの叫びを音で表した後のジェニーの晴れ晴れとした表情は、これからの彼女の人生が変わっていくことを暗示しているし、感動させる。
実はこの作品、劇中シューベルトを弾いた木吉佐和美、ラスト4分の壮絶なジェニーの演奏シーンを実際に弾いた白木加絵という二人の日本人ピアニストが演奏に携わっているとか。