《世界で数千万~三億人の死者?》
この強毒型鳥ウイルスから、人間への高い伝播力を持った新型インフルエンザが出現した場合、犠牲者は世界で数千万~三億人、日本で二一〇万人(オーストラリア・ロウィー研究所)に達し、経済的損失は世界全体で4.4兆ドル、日本で20兆円を超えると試算されている。
インドネシアでの事例を踏まえて、5月26日、WHO(世界保健機関)総会は、H5N1型を含む危険性の高い感染症の発生を直ちに通報するよう義務付ける決議を採択した。
我が国でも今月(2006年6月)2日、H5N1型を「指定感染症」及び「検疫感染症」として定め、患者の入院勧告や就業制限、患者に接触した人への健康診断の勧告など、拡大予防策を知事の権限として取れることとなった。
《90年前のスペインかぜの教訓》
およそ90年前、弱毒型鳥インフルエンザから変異した通称「スペインかぜ」が世界的に大流行した。
このとき日本人の罹患率は42パーセントで、45万人もの犠牲者を出した(速水融『日本を襲ったスペイン・インフルエンザ』)。昼夜を問わず患者は増え、上野駅や大阪駅では地方の火葬場で荼毘に付すための棺おけが山積みされたという。
《国家危機管理の問題》
現代では医療技術や衛生環境が改善されたとはいえ、スペインかぜの当時より人口は三倍以上に増えており、高速大量輸送を背景に、飛沫、空気感染するウイルスの感染率は飛躍的に上がる。
自給自足の習慣のなくなった今、物流が止まれば食糧は不足し、電気や水道が止まれば国民生活は破綻する。パニックになれば治安の維持すら難しい。新型インフルエンザ問題は、まさに国家危機管理の問題である。
《十日分の食糧備蓄を!》
欧米の先進諸国では、政治リーダーによる直轄型の対策が推進されている。流行時の緊急事態には、厳しい政治決断が求められるのは必至である。すでに、米国政府は国民に十日分の食糧備蓄や流行時の行動制限等を示し、企業や教育機関等の対応も勧告している。
日本でも医療関係のみならず、企業、教育機関、そして国民一人一人が整えるべき備えを、政府主導で早急に進めていくべきだろう。
《与謝野晶子の叫び》
「スペインかぜ」が猛威を振るう中、歌人与謝野晶子は、『横浜貿易新報』(現・神奈川新聞)の紙上で政府の対応の鈍さに不満を語っている。
「大呉服店、学校、興行物、大工場、大展覧会等、多くの人間の密集する場所の一時休業を(なぜ)命じなかったのでせうか」与謝野一家には11人の子供がいたが、一人が小学校で感染したのをきっかけに、家族全員が次々に倒れた。政府への不満は、子を持つ親として当然の心情だったのだろう。
《平時の準備こそ重要》
今まさに、新型インフルエンザに対して、国、経済界、国民が一丸となって取り組むべき時が来ている。国家の危機管理とは、流行していない平常時に、十分な備えを持ったプログラムを発動することである。
(岡田 晴恵−おかだ・はるえ/国立感染症研究所ウイルス第3部研究員)
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11 人中、9人の方が、「このレビューが参考になった」と投票しています。
5つ星のうち 5.0
H5N1インフルエンザの理解には最適,
By Joecool (東京都) - レビューをすべて見る
レビュー対象商品: 強毒性新型インフルエンザの脅威 (単行本)
近代最大の被害を出したスペイン風邪の状況・情報を収集することにより、今後発生が予測されているH5N1インフルエンザの対応・対策を考察する内容で、インフルエンザの脅威に関して記されています。インフルエンザとたかをくくったり、逆にヒステリックに大騒ぎしたりすることなく、きっちりとインフルエンザの脅威に関して記述されているところが好感が持てます。 関東大震災以上の人的&社会的被害・混乱をきたしたスペイン風邪の日本での流行・世界大戦を止めるほどの被害を出した欧米での流行が、具体的な数値として取り上げられ、インフルエンザの感染メカニズム・特性と合わせて考察されており、非常に参考になります。 後半は対策について記述されていますが、日本での取り組みがウィルスの特性や過去の流行時の状況から比較して、いかに頼りないものか分かります。 インフルエンザの大流行のメカニズムとその状況・対策を理解するのに最適な書と思います。
5 人中、2人の方が、「このレビューが参考になった」と投票しています。
5つ星のうち 5.0
私たち一般人にも判りやすい啓蒙の書,
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レビュー対象商品: 強毒性新型インフルエンザの脅威 (単行本)
風邪とインフルエンザの違いですら良くわかっていない私たち一般人にも判りやすい啓蒙の書。 思い込みや噂で鳥インフルエンザなどを語る前に 一読し、正確な知識をまずつけないといけない。 本書は大被害を出しながら、歴史の波に隠れてしまった スペイン風邪流行の歴史的経緯に始まり、 流行が予見される新型インフルエンザウイルスの きちんとした科学的知識が解説してある。 恐ろしいのは、新型インフルエンザは 確実に流行することになるだろうという断定。 ここに書かれている、生活空間の隔離と言う処方箋は 途方もなく敷居が高く、本当に流行した際には 生き残れるのだろうかという絶望的な気分にもなる。 それだけ重い警鐘を鳴らす啓蒙書である。
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