本盤に封入された推薦文中に野宮真貴の呼称として「東洋のバービー人形」という言葉がある。さらりと流れる彼女の歌は、
強烈な自己主張はないけれど聴き手の気分に左右されず耳へと入り込み、着せ替え人形の様にどんな衣装=サウンドにも
フィットする。 彼女は多くのプロデューサーにとって制作意欲(調理欲)をそそられる存在なのではないか。それは「絶対に君
をスターにする」と野宮をP5の3代目ボーカリストへ口説いたという小西康陽も例外ではなかったと思う。
本作は、キャリア30周年を迎えた彼女が今改めて歌いたいと感じた14曲(内P5時代のナンバーが10曲)のセルフカヴァーに
、80年代彼女が在籍したバンド、ポータブルロック時代の発掘音源(M15)を収録したベスト盤的作品。
各曲にはあらゆる年代の個性的なプロデューサー陣が結集、P5時代を中心とした楽曲と野宮の声という素材を思い思いに
料理した賑やかな仕上がりだ。原曲へ思い入れの強い方には比較という意味で賛否はあるだろうが、私自身は原曲とは別
腹として楽しめた。アニバーサリー盤らしく全体に漂うキラキラしたお祭り感が良い。
各曲のアレンジは原曲寄りのものと大胆に組み替えたものに分けられるが、どの曲にも製作者の色が濃く滲む仕上がり。
まず「東京は夜の7時」。RIP SLIMEのDJ FUMIYAが施したアレンジは、エレ.クトロを基調にした洒脱なアレンジ。メタリックな
電子音や喧騒・電話のベル等を散りばめた疾走感ある創りは、夜都会の賑わう情景が浮かぶようで嬉しくなってしまう。
若手組からはP5ファンを自認するヒャダインによる「ベイビィ・ポータブル・ロック」。ファミコンの様な安っぽいピコピコ音やP5
へのオマージュとなる「new sound phonic spectacular」のナレーション等遊びに満ちた可愛らしい仕上がり。
口ロロプロデュースによる「トゥイギー・トゥイギー」。彼らは腹に響く強烈なビート・キックにピアノのクールな響きを乗せた
鋭角的なアレンジを用意、組み替え直したコード進行やリズムチェンジ等のトリッキーな創りは曲の新しい魅力を引き出した。
作品全体としてはこれら濃密でアクの強いサウンドを見事に乗りこなす野宮の声の魅力を再発見させられる創りとなっている。
雑誌のインタビューで彼女は「そろそろ、恋したくなるような浮き浮きするような曲をまた聴きたい、歌いたいと私は思うんです
ね。」と語る。閉塞感漂う世相を反映した音楽とことばが溢れる今、心に眩しい陽の光を当てる「ハッピーでキャッチー」な音楽
を届けてくれる彼女の存在は貴重だと私は思う。彼女やP5を知らない若い方に原曲への入口としてお薦めしてみたい。