千原ジュニアの自伝的小説。
前作『14才』は絶望的にまでに孤独だった彼の10代、引きこもり時代を書いていた。そのほとんどすべては、彼の内面で起きた自問自答であり、感情がカオスになって読む者に襲ってくる。姿形も定まらぬ、いわばマグマの状態だった。
今作『3月30日』は、地中奥深くでうごめいていたそのマグマに一筋の光が差し込み、空気にさらされ冷めることで、形あるものに変容していく。「僕」は引きこもっていた部屋から脱出して、お笑い界へと飛び込み、芸人として、そして男として、さらに人間として成長を遂げていく。
天才肌であると言われているジュニアが、最初のころはコンクールで連戦連敗だったこと。
プライドが高いと言われているジュニアが、先輩芸人のネタを舞台袖で必死になって学習していたこと。
それらは、後に「吉本のカリスマ」とまで詠われることとなる彼からは想像がつかないエピソードだ。
冷えたマグマは、観るものの価値観をスパッと切り刻む、お笑いの「センス」という名の刃と化していった。しかし、どんなに切れ味鋭い刃も、握る者を傷つけないための柄の部分が必要である。これは、ジュニアという名のジャックナイフにまだ柄さえついていなかったころの話。
大阪での大ブレークと、満を持しての東京進出。そしてそれの失敗、別れ、バイク事故。生死の境をさまよったことで、「僕」は「人を楽しませたい」という芸人になったときに抱いていた最初の気持ちを取り戻す。
今ではバターナイフと揶揄され、丸くなったと言われているジュニア。
でもそれが大人になるってことだろ。