前巻から8ヶ月振りの第7巻。
前巻で主人公・零に敗れた山崎五段、生徒のイジメ問題に疲弊しきった担任の先生、
ヒステリックな母に本心を理解されず、どこか空っぽなイジメの首謀者高城、
怯えながらイジメ側に加わっていたクラスメイト、
前巻まで攻撃的で、力を奮っていた登場人物たちの弱さが露呈し、
人間らしさが見えてくる。
根っからの悪人はいない。誰もが心に闇を抱えながら必死に生きている。
それでも、被害者はそれに耐えられず転校したり、
病に倒れたり、命を落としたりしかねないという事実を、絶妙なバランスで描いている。
イジメられて苦しむ「ちほ」を助けてイジメに遭う「ひな」。
母亡きあと、ひなを守らねばと気を張りつつも悩む姉の「あかり」。
ひなを守りたいが、何もできなかったと自分を責める零。
そんな零を応援して将科部を作るが、廃部の危機と零の居場所を案じて奔走する林田先生。
強い者も弱い者も、みな苦悩して成長していくその姿が、
どれも清々しく気持ち良い。
そして自分自身、心の闇と向き合い、共に成長していきたいと思えた。
特に山崎五段の話は、著者・羽海野氏の強い意志を感じさせられた。
羽海野氏は前作「ハチミツとクローバー」から挑戦的なコマ割や斬新なアングル、描写を繰り返してきたけれど、
さらに本巻でも棋譜の図式を白抜きでダークな背景にして山崎五段の自問自答に深みを持たせたり、
将棋の話にレース鳩の話を重ねてきたり、対局で、ゲームのような技名の応酬を描き、コミカルな表現をしてみたり、
数々のタイトル(漫画賞)を手にしてきた今でも、何かを失う怖れを越えて、
深いところに飛び込み続ける自分で在りたいという意志を本巻からさらに強く感じた。
羽海野氏自身、怖れと戦いながら日々、ひなや二海堂の強さを追いかけているのだろうと思った。
「深く読むことは、まっ暗な水底に潜って行くのに似てる」
「『答え』はまっ暗な水底にしかなく、進めば進むほど次の『答え』は更に深い所でしか見つからなくなる」
「だがプロになって6年経つも、まったく先に進めなくなってしまった今では―」
「リミッターのついた努力しかできなくなった」
「でもそんな俺を尻目に、桐山と二海堂は、当然のように飛び込んでいく。―何度でも」
「正気の沙汰じゃない。彼らは何度手ぶらで戻っても、ますます対策を練って再トライを繰り返す」
「苦痛などおかまいなしに。その身を投げて。何度でも」
「―恐怖がまさった俺を残して」
山崎五段の自問自答が、羽海野氏自身の自問自答に重なって思えた。
まっ暗な水底に飛び込んでいく勇気を見せてくれる著者に心から感謝したい。
世間がどんな評価を与えても、羽海野氏のスタイルを応援し続けていきたいと思った。