「夏はホラーよね」と軽薄な気分でレンタルしたら、かなりの名作でした。ビックリしてしまった。ゾンビ映画だと思っていたら…いや、ゾンビは確かに登場しますが、これは人間存在を考察する寓話だったんですね。
冒頭の「誰もいなくなった街」の不気味な美しさは一見の価値アリです。人間の影が一切ない街、というのを想像出来ますか。恐ろしく、物寂しく、同時に映像的には妙な開放感があるのです。私たちは誰しも心のどこかで「現代社会はとにかく人間が多すぎる…」とボヤいているのかもしれない。
中盤から恐ろしいのがゾンビなのか人間なのかジワジワと分からなくなる辺りの心理的な恐さが見事です。そしてこれは非常に切ないファンタジーでもあるんですね。イエーダーマン(普通の男)の主人公の青年は、最初は「無力」と「困惑」を体現し、しかし最後には、大勢の男を敵に回して、ヒロインと少女を守るヒーローになるんですから。つまり「滅びた国で最後に生き残り、女を手に入れる男」という訳です。そしてそれが、普通の、善き青年なのです。「平凡な善人の青年」は果たしてこういう狂気が支配する状況で生き残れるのでしょうか。極限状態でスーパーマンになれるのでしょうか。これは、そうあれかし、というファンタジーです。「最後に生き残る男が善き人であって欲しい」という見果てぬ夢が込められた物語です。
ホラーというよりダークなファンタジーではないかしら。ある意味、願望充足型の物語ですが、監督の人間に対する悲哀や諦観が静かに伝わってくる世界でもあります。前評判を知らずに手に取った一本ですが、掘り出し物でした。