「大和」特攻と同時期に、南シナ海を北上し日本本土を目指した「ヒ88丁船団」は、低速な輸送船団をこれまた低速の火力貧弱な小型艦艇で護衛するという、「大和」特攻よりもはるかに困難な条件を背負っていた。艦を沈めないことすら極めて困難な状況にあって、手負いの駆逐艦の指揮を取り中国沿岸まで到達させた、その艦長本人の貴重な戦記である。
「天津風」が加わった「ヒ88丁船団」については、海上護衛戦を扱う一部の専門書を除き、世人の知るところがほとんどなかった。だから、本書は単に異色の艦長記というだけでなく、太平洋戦争末期の海上護衛戦を扱った一次証言としても、非常に意義深いものである。
さらに言えば、第二次大戦で生き残った艦長たちは、著者を除きほぼ全員が終戦当時少佐以上の階級にあり、戦後60年を経てほとんどが鬼籍に入っている。その意味では、第二次大戦を扱った事実上最後の艦長記であり、本書の持つ価値は価格以上に重いと思われる。
私が敢えて「海戦記」でなく「戦記」と記したのは、著者の闘いが海上だけにとどまらず、「天津風」を失った後の第二部でも続いているからだ。一歩間違えれば士気喪失はおろか、部下や自身の生命すら危うい状況が続くなか、いかに部下を統率するか方策を練り実行するくだりは、著者の苦悩が言外ににじみ出ているようである。