著者(故人)の渥美俊一氏は、1962年にペガサスクラブを設立し、日本の高度経済成長期において米国の小売・
流通業の手法を日本に広く紹介した。設立時のメンバーにはダイエー中内功氏を筆頭に知名度のあるメンバーが名
を連ねている。
現在に至るまで一貫して日本の小売・流通業はアメリカに比べあらゆる点で遅れていると主張し、ウォルマートを
絶賛している。アメリカは消費の格差がなくなっており一般庶民も豊かな暮らしができ、それに比べると日本の国
民の生活は余りにも貧しいとのことだ。
P86からの「日本女性の哀しさ」では日本の女性の一生が貧しく哀れだと、余りにも一方的な決め付け・価値観のも
とに述べられている。何を「貧しい」と定義し、それをどのような情報を収集し、どう判断した上で「哀れ」と結
論づけるのかといった、そこには論理性は全くない。こんなことを本当に渥美氏が書いたのであれば、完全に時代
錯誤も甚だしい。
著者は一体、いつの時代のアメリカを夢見ているのだろうか。(注:本著はサブプライムローン・リーマンショック
の2008年11月に出版された本であることを付記しておく。)
今アメリカの庶民は本当に豊かといえるのだろか。この時代においてアメリカのようになりたいなどと思う人はあ
まりいないだろう。全人口の4分の1が貧困層とも言われ、また失業率も高く、健康保険にも入れない人が多いし
治安も悪い。ウォルマートはそうした貧困層の上に成り立っており、アメリカでは嫌われているし、米国内の業績
も頭打ちである。
日本には日本独自の文化やニーズがありコンビニやスーパーの惣菜・お弁当など日本のほうがアメリカより遥かに先
を言っているものも多い。更に現代の小売・流通はITが大きな役割を果たしているがそうした点は一切触れられてい
ない。
著者のこれまでの功績は認めるが、もう歴史的役割は終えたといってもよいと思う。ペガサスクラブ自体、もう業界に以前
のような影響力はないのではないだろうか。この著書を読んでそう確信した。