正直に言うと今回の1Q84は過去の作品に比べて(海辺のカフカは読んでないのでそれ以外で)幾分質の落ちるものだった印象です。
たとえBOOK3、もしくはBOOK4で完結したとしても。
村上春樹は内面の混沌とした感情を表現したり、一人で思いをめぐらせ完結する流れを表現するのは非常に巧みですが、人との会話形式で感情を吐露させるような表現はそれに比べると数段質が落ちてしまうのか?羊をめぐる冒険でも似た様なパターンがありましたが今回はテーマが違っていたため雑になってたというか、そんなもんか?的な浅はかさみたいなものを感じました。
また著者が昔から拘っているものに対する描写と、そうでないものだけど登場人物の設定にしたものの描写にクオリティの差がありすぎて冷めてしまう部分もありました。
しかし上記のネガティブな条件をふっ飛ばしてしまうほどさらりとした文体と展開の鋭さは相変わらず冴えてます。
娯楽小説としてみれば十分寡作であると思います。
著者はこの作品で大きく方向転換をしたようです。
いままでは主人公「僕」が箱庭の中で物語を展開する「内に向いた」作品でしたが、今回のテーマは「愛」だったり親子関係だったり。モチーフにしたカルトやフェミニズムにも著者自身の問題提起があったのだと思います。テーマが内面から外に向かっていったようです。
そして書きたいことが沢山あるが故にどれも今ひとつ心に響かない。
フェミニズムからくる暴力やカルトの描き方には決して良い意味ではない驚きはありましたが。一つ一つの表現の質が今までの作品よりも雑に感じました。
親子関係に関しては深い部分が表現できていたと思いますが、自己愛と性愛の印象が強い村上春樹がそれ以外の愛を表現しようとしてもそれ以上に優れた表現が出来ていないというジレンマを感じました。
かなりネガティブに描いてきましたが、これだけの文字数ある小説を多くの人にさらりと読ませてしまう著者の文筆家としての力量は素晴らしいと思います。
村上春樹を絶賛する人も嫌悪する人もいますがレビューやブログの感想をみていると両方に的を得た意見があると思います。
一方盲目的に肯定したり、逆に全てを否定する人たちもいますが。
私はそんなに言うほど崇高な文学とは思えないし、毛嫌いするほど悪くない優れた娯楽小説家だと思います。