本書のテーマを簡潔に言えば、世界と日本の金融政策における「不確実性への挑戦」を通じて、「1990年代以降の激動する世界を理解する」ことだろう。
サブプライム問題の真っ只中にいる現在、非常にタイムリーな内容で、サブプライム問題に至る国際経済の流れが、連続的にかつわかりやすく理解できる。 また、世界の政策担当者がその対策の論拠とする最新の理論もわかりやすく、かつ十分に説明され、 新書とはいえ、恐らく国内今年度下半期の最も優れた経済書の一つになるのではないだろうか。
本書の流れは、97年のタイの土地バブル崩壊を端緒として、フィリピン、インドネシア、韓国へ拡大し、ロシアのデフォルト、そしてLTCM破綻に至ったアジア通貨危機と、住専問題に端を発し、三洋、拓銀、山一から、日債銀と長銀の破綻に至った日本の金融連鎖危機への政策担当者による対応の解説を軸に進行する。
その過程では、「流動性問題」であったアジア危機を「構造問題」としてとらえたIMFの失策や、その遠因がメキシコ危機へのルービン財務長官の対応にあったこと、また、日本の金融連鎖危機への対処においても、住専処理に対する批判が、危機対応の足枷となり、その住専問題の背後には農林中金と農協の責任回避の思惑があったこと等が解説されてゆく。
最新の経済理論については、「バジョット・ルール」や「ナイトの不確実性」、「質への逃避」、「フリーライド」といったキーワードを巧みに使い、興味深いエピソードや、ケインズ、ハイエクといった古典理論も挿入しながら解説され、全く飽きさせることがない。
「ナイトの不確実性」とは、既知であるが故にその確率分布を想定できる「リスク」とは異なり、未経験の領域において、確率分布を想定できない不確実性を言う。 イノベーションが重要性を増す現代は、必然的に「ナイトの不確実性」が増す時代であり、その不確実性に対する「過度の楽観」がバブルを生み、「過度の悲観」が金融危機を生むことになるという。
金融危機への対応策についても、(1)グリーンスパンに見られる攻撃的なまでに迅速な金融緩和策、(2)公的資金の注入ではなく、ベイルインと呼ばれる債権者間の迅速な調整による収拾等、最新の動向がわかりやすく解説される。
上記のような金融危機への対応の歴史と理論を解説すると共に、本書のタイトル通り、通貨危機に懲りたアジア各国が、IMFや世銀が勧告した変動相場制への移行に従わず、巨額の外貨蓄積とドルと連動した管理相場性を採用することで、世界の半分を覆うドル経済圏を形成し、結果として米国の消費拡大を通じた未曾有の世界好景気を発生させ、サブプライム危機を生む一因となった等、現代世界経済の事象をわかりやすく、総合的に理解させてくれる手腕もすばらしいと思う。 特に、危機の中、ポジションを取られている個人投資家の方には強くお勧めいたします。