僕はいわゆるビートルズ世代ではない。ロックを聴き始めた頃、すでにビートルズは解散していたし、ジョン・レノンは音楽活動を休止し、5年間におよぶ主夫生活に専念しようとしていた。だから僕の中でジョン・レノンは偉大なミュージシャンであっても、決して特別な存在ではなかった。1980年12月8日に彼が凶弾に倒れたとのニュースを聞いたときも、大きな衝撃を受けたという記憶はない。当時、高校3年生だった僕は大学受験を間近に控えており、たぶんそれどころではなかったのだ。
今年の12月8日はジョンの30回目の命日だった。ちょうどその日に出版された本書は、
丹念な取材に基づき、「その日」の出来事を分刻みで再現したノンフィクション。主な登場人物は、ジョンとヨーコとその息子ショーン、犯人のマーク・チャップマン、元ビートルズのメンバー、ジョンの元妻シンシアと息子のジュリアン、そして多くのファンやニューヨーク市民らである。
おそらく、こういうのを迫真のドキュメンタリーと呼ぶのだろう。被害者と犯人の過去をフラッシュバックのように振り返りながら、その日、それぞれの登場人物が何を考え、どのような行動をしたのかが詳述されていく。読者はその過程をたどるうちに、ビートルズがどれだけ多くの人に影響を与えたか、ジョンがどれだけニューヨーク市民から愛されていたか、この事件がどれだけ衝撃的だったかを肌で感じ、「歴史」としてではなくまるで当事者のようにその日を追体験することになる。
僕は2003年と2008年にニューヨークを訪問した際、事件の舞台となったダコタハウスと、その向かい側に位置するセントラルパーク内のストロベリーフィールズと名づけられた一角を訪れた。もしそれが本書を読んだ後だったら、そのとき抱いた感慨はより深いものだったに違いない。僕のようなビートルズ世代以降のロックファンにこそお薦めしたい一冊である。