左翼の歴史というのは、安東仁兵衛の「私的 日本共産党秘史」のような左翼ボキャブラリーで書かれたものや森田実の「戦後左翼の秘密」のような1960年安保より前の転向者の著作があるが、この本のすが秀実のように、1970年当時20歳前後という世代の著作で一般人にもわかる語彙で書いている本は珍しい。新書ということもあり、一気に読んだ。
この本が扱っているのは全世界的に学生運動が盛り上がった68年だけではない。それ以前の60年安保、それより前の共産党の武装活動時代なども扱っている。それゆえに、戦後の左翼活動の歴史を読む上ではほぼ過不足がない網羅的な本である。
おもしろいのは新左翼トロツキストの人物として現在は陰謀論の本を出している太田龍のことを扱っていること。この太田竜の「偽史」やユダヤ陰謀論への傾斜のきっかけが1970年の7月にあった「7・7青華闘告発」という在日中国人=マイノリティに対する差別発言問題に端を発した、日本の左翼の日本のマイノリティに対する関心に由来すると指摘している部分は非常に個人的に納得のいくものだった。太田竜は、マイノリティを研究していくうちに、天皇制の歴史観が虚偽に満ちたものであると見いだし、そこに欧米国際金融資本との結託の事実を見たのだろう。だから太田龍の著作の日本柱が八切止夫のような独自流の日本史とそれと表裏をなす、ユダヤ・フリーメーソン・宇宙人を中心におく陰謀的歴史観なのである。
この太田竜の記述に関連して、三島由紀夫が自らUFO研究会に関わっていたという指摘がされている。戦前の大本教に対する関心は左翼・右翼に共通するものがあり、偽史への関心というのが、主流派言論人として活躍できるかどうかのメルクマールになっていたと言うことが分かる。(この点で吉本隆明は巧妙だったといえる)
一方の左翼トロツキストたちは、過激派になって自滅していくわけだが、大島渚が「日本の夜と霧」で描いたように、一番賢かったのは「安保自動承認」を受けてアメリカナイズされていった若者たちだろう。その時期に左翼の運動から足を洗わなかった人々は冷や飯を人生で食うことになったわけだから。
その上で言えば、左翼運動がやがてサブカルに回収されていくわけだが、ここまで来ると、日本のムーブメントは若者消費文化に主体が移っていく。その点でこの本を読んだ上で、堀井憲一郎の『若者殺しの時代』を読むと、戦後の日本の文化のあらましが全部見通せると思う。すが秀実は「一九六八年は大学が若者の就職安定所であることをやめた」と本書で書いており、その後大学は若者消費文化の象徴になったと卓見を示している。ここが堀井の新書のテーマにつながっていく結節点である。