戦後日本のブラックボックスとも云うべき占領期に光を当て、憲法改正問題に関する白洲次郎の一連の言動をドキュメントノベル風に描いた作品。吉田茂とのやりとりをはじめ、随所で交わされる会話の語り口にリアリティがあり、評伝の類とはまた違った趣がある。
「新憲法誕生の生き証人」と言われながらも、彼は生涯多くを語らず、保管していた多くの資料も、「墓場まで持っていく」と言いながら死の直前に燃してしまった。そんな中、GHQによる憲法草案の提示(1946/2/13)から、修正作業を経て日本国憲法草案が閣議で承認されるまでの動きを書き残した「白洲手記」は彼による数少ない一次資料で、全編漢字とカタカナで記されているが、唯一「今に見ていろ」の言葉だけが平仮名であった。「憲法は本来自分達の手で作られるべきものだった」という悔しさと抑えた憤りが、この六文字には込められているのだろう。