津原泰水の最新短編集『11』を読んだ。茫然としている。今まで腐るほど小説を読んできたが、これほどまでに水準の高い短編集にはひさしく出遭っていなかったからである。「珠玉の」などという紋切り型の賛辞を突き抜けている。圧倒的な完成度だ。そして、めちゃくちゃに面白い。あなたが小説好きなら、『11』を読んで絶対に損はしない。ものすごく得をする。そう自信をもって推薦できる。
ミュージシャンズ・ミュージシャンという言葉がある。プロの音楽家にファンが多いプロの音楽家のことだ。津原泰水は、間違いなく「今の日本の文学界における、ミュージシャンズ・ミュージシャン」である。プロの小説家にファンが多いプロの小説家だ。総ひのき造りのような香り高く美しい文体で、奔放にして卓抜なアイデアを、精妙をきわめた構成によって語っていくのである。津原泰水ならではの「三位一体」である。憧れない作家がいるだろうか。
11編の収録作品について簡単に触れておきたい。「五色の舟」は見世物を生業としている一家と、真実のみを語る怪物くだんの話。「延長コード」では家出少女の奇妙な収集品が彼岸と此岸を結びつける。「追ってくる少年」は無惨な事故の後日譚。「微笑面・改」は彫刻家とモデルの間の愛憎劇。「琥珀みがき」は少女が大人の女になるストーリー。「手」は"好奇心が猫を殺す"話。「クラーケン」は犬好きも犬嫌いも息を呑む作品。「YYとその身幹」は完璧な美女についての考察。「テルミン嬢」はナノマシン医療と音楽が結合した可憐にして雄大なSF。「土の枕」は民話のように凝縮された戦争の物語。
そして「キリノ」は、作家の桐野夏生の特集に寄せられた痛快無比な「小説」である。
最後に。Amazonのこのページに掲載されている書影の印象的な人形は、四谷シモンの作品である。瀟洒な装丁は、著者の津原泰水自身によるもの。この美意識に「何か」を感じたなら、本書『11』は必ずその予感に応えてくれる。
11 eleven