本書は、著者自身やその他の研究者による研究に基づき、「1800年以降、イギリスなどごく一部の国々の所得は急激な上昇を見せた一方、その他の多くの国々では、それが見られなかったのはなぜか」という点について、代替的な諸理論では十分に説明がされないという傍証的な議論を中心として展開がなされる。その主張を簡単に要約するとすれば、「イギリスの産業革命期とそれに続く経済発展の重要な要因としては、富裕層がより多くの子供を残し、そうした社会層の思考様式や倫理が社会に拡散していったことがあるのではないか」という見方を示しているということになろう。派生して、著者は、主にIMFや世界銀行といった国際機関によって行われている途上国への援助の効果に対して疑問を投げかけている(原題は、「援助よさらば」であり、恐らく、アーネスト・ヘミングウェイの代表的著作の一つに引っ掛けているのだと思われるが、評者は、日本語訳のタイトルのほうが、より内容に合致していると思う)。
経済成長の問題に関心を持つ学徒にとっては、刺激的で、精読に値するものと思われるが、恐らく、学界においては、一つの見方を示したというのが大方の理解と思われ、時間的に余裕がある読者は、ロバート・アレン教授による全面否定的な反論(Journal of Economic Literature誌2008年12月号)を合わせて読まれると良いであろう(なお、評者は、クラーク教授とアレン教授のどちらにも軍配を上げることは出来ない)。
昨今、まことしやかに、国家の「成長戦略」なるものが語られることが多くなったようであるが、「国家」が、その国家の経済成長のために何をなすべきなのか、あるいは、何をなさないべきなのか。そもそも、「経済成長」とはどのような理由で生じ、持続あるいは衰退するものなのかについて、人類はまだ確定的なことを言える段階に至っていないのではないかという思いを新たにした。なお、翻訳は、リサーチャー(日本語で言うところの経済学者)によるものではなく、プロの翻訳者になるものなので、大変読みやすいことを付言しておく。