比較行動学者で今は京大教授の著者が、毎日サルの観察をしていた30歳代に、(多分)フトわが子を観察の対象にしたことが契機で著された本。
赤ちゃんは一年位で大人の言葉を発するようになるが、著者はいろいろな実験や調査を通して研究した結果、それは、それまでに赤ちゃんが驚くべき積極性を持って外界にかかわりを持ってきたからで、心の中に独自の認識世界を構成しているからだ、と言っている。この認識は、「人は白紙の状態でこの世に生を受ける」と言ったジョン・ロック(17世紀末に活躍した著名なイギリス経験論哲学者で現代にも大きな影響を与えている)の人間観とは異なると指摘していて面白い。
ヒトの物の見方を研究する場合、なにも地の果てに行かずとも、身近に観察対象があり、その典型は言葉(これはヒトが他の生物と最も違うところ)を獲得しつつある赤ちゃんであるという著者の判断はとても合理的で面白い。赤ちゃんはとても身近であるにもかかわらず「ヒトの新生児は未熟である」などという誤説が権威を持って各方面で引用されている実態も紹介されていて、真実に迫る方法としての科学をより深く理解するのに役立つ本としても参考になると思います。