待望の杉山登志作品集がついにリリースとあって、興奮が止まらない。
彼の作品の熱心なマニアの方には、物足りない内容かもしれないが、今回はACC CMフェスティバル受賞作品に絞ってまとめたものなので、この手のレヴューにありがちな、アレが入っていない、コレが入っていないという事は言いっこなしにしたい。
ただし、彼の受賞作品は、ここに編纂された59本のCMだけでない事も付け加えておかなければならない。
彼の作品に限った事ではないが、CMの作品集というのはリリースにこぎ着けるまで、とても大変な作業が要される。
クライアントはもちろんの事、出演者においては、既に引退されたり、故人になられたタレント、まして素人の方などはなおさらの事、連絡先もわからない本人や遺族においても、全ての権利者に承諾をとっていく必要がある。
まずは、版権や肖像権などの権利関係でかなりのハードルがあるのだ。
今は契約書にその辺の権利関係の約定が盛り込まれているのだろうけど。
何はともあれ、avex ioさんには頭が下がる思いである。
過去にもコカコーラ、資生堂、ニッサン(スカイライン)の企業という括りでの傑作CM集もあったが、作家としてCM作品映像集がリリースされたのは、映画監督市川崑の「スタイルオブ市川崑」以来であろう。
杉山登志の遺したCMは「作品」という言葉が相応しい。
商品を売るためだけのCMではなく、非常にカラフルな表現を加え、さらに人間心理の微妙な描写までダイナミックに表現した杉山の仕事が、現在のCMに与えた影響ははかりしれないだろう。
天才CMディレクターとして名声をあげた杉山は、1973年12月、自宅マンションで突然謎の自殺を遂げる。享年37歳。
彼の晩年の作品には狂気すら感じる。有名な資生堂シフォネット「図書館」などにその片鱗が伺い知れる。
最後の作品になってしまった、資生堂ロードスのCMや、まるで杉山が自分の死を予感していたのではないかと思わずにいられない「春の資生堂化粧品デー」など、いつか彼の作品がアーカイブされる事を願って止まない。
出来る事なら彼が、生きている時に会ってみたかった。
あなたがクリエイターだろうが、そうでなかろうが、この作品集を知ったなら、何かの縁だと思って彼の作品を観てみてほしい。
そして、もし可能なら「CMにチャンネルを合わせた日」という彼の死後出版された本を手に入れてもらえれば、より本作品を楽しめるだろう。