現在NHKのBSで放送している海外ドラマ『glee』の吹き替え版に出演している声優・坂本真綾のエッセイ本ということで手にしました。
20代最後にパリ、プラハ、ウィーン、ベニス、ローマ、フィレンツェ、バルセロナを経由して、あこがれのリスボンへと向かう5週間の一人旅に出ます。その時にノートに書き留めた文章がまとめられています。
英語も心もとないという著者がガイドブックも持たず、人生初の海外一人旅に出る。宿すら事前にほとんど決めずに日本を出ます。旅の途中途中でインターネットを使って外国語をヤマ勘で読み解きながら予約していくのです。当然失敗もあります。オーストリアで話される言葉がドイツ語だというのも現地で初めて知ったというくだりを読むと、著者ほどの魅力的な女性の一人旅としては少なからず無謀であり、ひょっとしてやけくそ気味なのかと、心安らかざる思いにとらわれることが幾度もあります。
ですが、著者はガイドブックをなぞる旅を恐れていたように思えます。修道院の図書館を引き寄せられるように訪れて何かを見いだし、列車や道で偶然出会った人々との会話のひとつひとつを丁寧に書きとめ、感じていく著者。ガイドブックにはない、誰でもない私だけの旅の想い出を積み上げていく姿がそこにはあります。
そして著者はこう綴ります。
「他人と何かを共有するということは時に煩わしくて、難しい。だけどたとえばほんの一瞬すれ違っただけの見知らぬ人だって、ことばが通じなくたって、同じ景色を見て美しいと思ったり同じものを食べて美味しいと思う。そんな小さなことだってやっぱり、世界を共有するということのひとつだ。私たちは無意識のうちにたくさんの人と同じものを共有して、繋がって、支え合って生きている。」(185頁)
旅の魔術が与えてくれるものを、知らず知らずのうちに確かに感じとっている著者。その若い力を羨ましく思いました。