素晴らしい本だと思います。
昨今の「超訳」ブームには、些か良くないものを感じていた私ですが、
この現代語訳『留魂録』は、超訳ではないものの、
吉田松陰について学識深く、尊敬の念深い訳者による名文で、
松陰の心を、原文に即して良く伝えていることと思います。
『留魂録』と銘打っていますが、『留魂録』のみではなく、
『留魂録』に至るまでの、松陰の門下生や友人・同志に当てた手紙なども訳されています。
全七章のうち、『留魂録』は、第五・六章になります。
その構成は、以下の通りです。
はじめに 『留魂録』の奇跡
第一章 死生を想う
第二章 死生に対す
第三章 死生を悟る
第四章 死生を決す
第五章 死生を定む (『留魂録』上・安政六年十月二十六日)
第六章 死生を分かつ(『留魂録』下・安政六年十月二十六日)
第七章 死生を超えて――わが兄・吉田松陰
おわりに 魂をとどめて
当時の吉田松陰の心境の変化が「はじめに」から「おわりに」にかけて、
年代ごとに、松陰の手になる文が訳されて分かるようになっており、その前後には、
良く意を汲んだ訳者の解説が「前書」「余話」として挿入されています。
吉田松陰という方の人となりや当時の人間関係が愛情をもって語られております。
第七章では、松陰の二歳年下の妹・千代のインタビュー記事も訳されており、
家族の眼から見た吉田松陰の姿も垣間見ることができます。
また、現代語訳のみではなく、巻末には『留魂録』の原文が付記されており、
本文においても、重要な箇所は、原文が掲載されるなど、
心遣いの点でも、学問的な誠実さという点でも信頼できる書だと思います。
それ以外にも、「尊王攘夷」という思想が、偏狭なナショナリズムとは全く異なり、
幕末の世にあって、日本が生き残るための唯一の活路であった点など、
大変勉強になる論も示されておりました。
大和魂を失いつつある
現代の日本人にこそ、是非読んで欲しい一書です。