「TPP」について、本書は新しい視点でアメリカの真の目的を説き明かそうとするものである。著者によれば、アメリカの真のねらいは日本の農産物や医療制度・医療品にあるわけではない。なぜなら、それを自由化したところで、アメリカの失業率や貿易収支の改善にさほど影響を与えるものではないからだ。著者は、むしろWTO加入後も知的財産権を侵害してやまない中国を最終的ターゲットにして、アメリカの「知的財産権」を守る世界システムを構築していくことが「TPP」の最大の目的なのだ、という。
2008年、民主・共和両党が超党派で成立させた「PRO-IP法」により通称「IPEC」と呼ばれる「アメリカ知的財産権を行使するためのコーディネーター」が組織された。これは、実質的に大統領に直属する機関であり、それを任せられたのがビクトリア・エスピネル女史である。著者は、PRO-IP法が指摘した、アメリカが過去数十兆円の知的財産の侵害を受けた事実と年間4兆円以上の被害が現在進行形で進んでいることへのアメリカの危機感に注目する。
「ブルネイ」「ベトナム」がアジアに於ける不法CD等の一大産出国になっている。「知財戦争」の視点に立てばこれらの「小国」をも取り込むことの意義が「TPP」にはある。著者は、日本もまた、アメリカと協調して「知的財産権の使用を巡る国際ルール作り」に積極的に参加しなければならないとする。現在、我が国は年間最低でも1.5兆円の被害を受けているからだ。また、手塚治虫のパクリと見られるディズニーの「ライオンキング」のようにアメリカ自身が知的財産を侵害しているケースもある。英語で法廷戦術のできる人材を日本も一刻も早く育てなければならない。
「日米衝突の根源」の著者による新たな視点の提示であるが、著者の主張は実証的であり、アメリカで実際に知的財産権を巡る裁判を経験した著者の論理は説得力がある。(この民事訴訟の経緯は、非常に興味深い。いずれ、日本でもこのような訴訟が行われるのであろうか。)
「TPP」と、昨年末のアメリカの中国包囲網の構築(バランシング)とも言える新しい外交戦略を併せて考えると、オバマ政権は、経済、軍事の両面で「中国を決してアジアの覇権国にしない」というメッセージを発したものと考えられる。中国をターゲットとする「経済戦略」と「軍事的外交戦略」。そこにはアメリカの強い意志が感じられる。
ところで、せめぎ合う米中の間で、我が国の情報収集能力と外交能力を高めなければ、国際政治の成熟したプレーヤーとして存在感を示すことはできないだろう。