自分のマイルス神話を一度解体して、新しい文脈というか、新しいマトリクスでマイルスの音楽を楽しみたいと思って、文庫化を機に手にとりました。毎回、さまざまな武器=コンセプトを手に、その巨大な偶像からベールを取り払うがごとく展開していくきらめくような試論の数々に魅了されました。まるでミステリー小説を読むような楽しさを味わい、また自分のなかのベストアルバムが大きく入れ替わったりしましたよ。音楽がスタジオの卓やPCから作り出され、大衆の欲望を反映したメディアによって神話が作られていく時代にあって、本来、人間の生身から生み出される音楽とは何かという恐ろしく大きな主題がいつも語りの底にドローンのように鳴り響いているように感じられるのは、著者のひとり菊地さんが音楽家だからでしょうか。「講師」たちの切ないほどの情熱を感じながら読み耽り、千年に一度の秋の夜長を過ごしました。