本シリーズも5冊目を迎えた。戦前・戦中を通じて我が国の出版界が活発で、優秀な本が多く出版され国民の知識欲も旺盛であったことに改めて驚嘆させられる。GHQは戦後直ちに「太平洋戦争史」を新聞に掲載させて戦後史観を押し付けると同時に6,000冊以上の図書を焚書にして歴史の断絶を図った。戦後教育を受けた世代は、例え個々の歴史事実を知ったところでこのような図書に顕れた当時の国民の生の声を知らなければ刷り込みが改まらないであろう。このような図書を発掘した西尾氏の努力を高く評価する。
さて、本書(5冊目)の内容は日米開戦に先立つ背景として(1)米国のハワイ併合、(2)満洲国、(3)支邦の排日に関わるものであり、著者のいう「アメリカはなぜ日本と戦争をしたのか」を問う内容となっている。
米国は大陸内のフロアティアを開拓し尽くすと次に太平洋に目を向けた。1898年(明治31年)にハワイを併合し、米西戦争の結果、スペインからフィリピンを奪った。日露戦争直前のことである。後日の日米開戦が真珠湾攻撃で始まったことの必然性を示唆しているようだ(戦略的に正しかったかは別としても)。吉森實行『ハワイを繞る日米關係史』(昭和18年)によっている。
満洲国については、白樺派作家・長與善郎の啓蒙的な『少年満洲讀本』(昭和13年)を紹介している。写真も多く分かり易い。当時の国民の一般的な認識を示すものであろう。支邦の排日については、長野朗『日本と支邦の諸問題』(昭和4年)を紹介している。そこでは日本人とは全く異なる支邦人の特性が分析される。この認識は現代にも十分、通用するものだろう。長野氏が満洲事変後の政体として、清朝の故地である満洲に既に大量の支邦人(漢人)が流入している実情から「五族住み分け」による住民自治を唱えたということが興味深い。実際には満州国は「五族協和」を建前に清朝の復辟という形で建国したが、日本の敗戦後、支邦人の土地になってしまい満洲人は消えてしまった。
「日米開戦前夜」を描いた6冊目の出版が楽しみである。