本書はTRPGダンジョンズ&ドラゴンズ(D&D)の背景世界の一つであるフォーゴトン・レルムを舞台にしたファンタジー小説である。とかく裏方、回復役と見なされがちなクレリック(僧侶)のカダリーを主人公に据えて、様々なクレリックが集う叡智の図書館とそれを狙う毒の女神タロウナの教団の陰謀を描いている。
本書の魅力は、背景となる世界の広がりと魅力的なキャラクター達である。神々が地上に降りた”災厄の時”という世界を揺るがす一大事件や遠く離れた北方のダマラの地でのパラディンと魔王教団の死闘などを背景に、敵味方ともに魅力的なキャラクター達がそれぞれの迷いや不安を抱えつつ、自らの目的に向かって交錯する群像劇として非常に面白い。
主人公の発明狂の僧侶カダリーやヒロインのモンクのダニカ、ドルイド僧を目指す変わり種のドワーフとその兄弟、自らの信仰に悩むドルイドなどの主人公サイドの魅力を引き出すのははもちろんのこと、秘薬を作り出しながらライバルのやり手の新参者の司祭にそれを攫われてしまうタロウナ信者の魔術師、やり手の司祭と自らを召喚した魔術師を秤にかけて暗躍するインプ(小鬼)など、敵となるタロウナ教団の面々ですら深く、そして魅力的に描かれている。
そして、D&D小説ならではの多彩な魔術、マジックアイテム、そして怪物達との死闘がこの作者ならではの手に汗握る筆致で描かれ、さらにカダリーの過去の因縁とこの地域全域を揺るがす出来事への発展を予感させて本書は幕を閉じる。400ページオーバーの小説だが、一気呵成に読み切ってすぐに続刊が楽しみな、壮大な物語の開幕である。