TV「24」の緊張感に、「ソウ」シリーズのホラー部分を足した様な感じ。口を割らせる為の拷問行為が、ここまで表現されている映画は初めてかもしれません。エンディングが3パターンあるそうなのですが、日本でのバージョンは米国では公開されなかった一番エグイパターンのようです。
ラスト15分位までは観るに耐えない苦痛なシーンが続き、そこからは「おいおいマジかよ!? マジでやる気か??」と思わせる怒涛の展開となります。
ある意味、9.11以後のアメリカが直面している最も深刻かつ危機的な問題が、ズバリ提示されています。これこそがブッシュ以後のアメリカで、事実上公然と行われていることなのだということがわかってくる。もちろん、映画は映画だから、本作を「現実」に直結させるのは観念的すぎると思いますが...。
映画は、スティーブン・アーサー・ヤンガーと名乗る「アメリカ市民」の男(マイケル・シーン)が、えらく緊張の面持ちでビデオカメラを調節しながらメッセージを録画しているシーンから始まります。何度かカメラを止め、撮り直すうちに、この男が「とんでもない」要求を企てていることがわかる。が、そのシーンは中途で暗転し、タイトルが出る。雑踏を歩く女性は、キャリー=アン・モスだ。その歩き方と目付きが暗示するのは、タダモノではない。彼女の出世作「マトリックス」からの強烈な印象とも重なって、冒頭の緊張を引き継いだ緊迫感と、期待をかきたてます。
やがて、彼女がヘレン・ブロディと言う名で、ロサンゼルスのFBI「対テロユニット」の捜査官であることがわかる。到着したオフィスではテロ疑惑のさまざまな情報が飛び交っている。壁には何人もの顔写真が見える。関係を表示した図もある。へえ、こんな感じでいまアメリカに住む人間は監視されているんだという印象。実際、ケータイ電話の通信まで録音しているという。冷静で芯の強いキャラクターは、キャリー=アン・モスにピッタリ。
一方、本作のもう一人の重要人物「H」サミュエル・L・ジャクソン)は、危険人物を落とす尋問のプロなのだけれど、何かがあって、CIAににらまれて、CIAからFBIにいやがらせの情報を流されたらしい。そのために、FBIが、彼を「危険人物」とみなし、自宅へ彼の逮捕に向かうのだ。しかし、この深刻な事件が起こり、犯人ヤンガーの尋問にプロとして引き出されることになります。
冒頭のビデオは「4日」の間に自分の要求が容れられなければ、アメリカの3つの都市で核爆弾が破裂するという脅迫ビデオでした。この段階では、「要求」の詳細はわからないが、アメリカのイスラム支配に反対するものであることは予測にかたくない。 本作のユニークなところは、だからといって、この脅迫者と爆弾を探すサスペンスに重心を置かないところ。彼は、すぐに逮捕され、わざと捕まったことが後で判明します。これから映画のシーンの大半は、ヤンガーに自白を強いる「尋問」に終始します。
恐ろしいのは、対テロ(核兵器など大量殺戮)のようなことになると、「超法規的」処置が取られ、尋問で何でもできるように、逮捕された人物のアメリカ市民権を剥奪させてしまうようなことも出来るということ。ヤングは、そうされ、およそ「考えられない」(原題=unthinkable)拷問の取り調べを受けるのである。いまのアメリカでは常時起こりえることなんでしょうね。
尋問の際の暴力の是非はどこまで許されるのか。このテーマで最後まで突き進みます。核で死ぬ人間を天秤にかければ正当性はあるだろうが、真実かどうかは別の話。
サミュエル・L・ジャクソンとキャリー・アン・モスの対立や、首謀犯のマイケル・シーンの演技も見物となります。「H」がこの映画で見せる行為は、演じるサミュエル・L・ジャクソンのあの目付きもあいまって、実に恐ろしい。軍の要請で協力を求められたヘレンは、ショックを受け、「H」と敵対関係になります。このあたりは、「残酷」なシーンを和らげるためにその残酷なことをやる人物を非難する人物を置くという、ハリウッド映画の常道のようにも見えますが、やがて、ヘレン自身も加害者にならざるを得なくなる。そこが、本作の手抜きのない凄いところ。
もはや、「悪人」も「善人」もない。通常、最終的には「悪人」の滅亡という形をとりがちなのに対して、決してその常識的な轍には嵌らない。むしろ、すべての問題は権力が自ら産み、招いたことであり、そのなかで、「H」のような権力の代理人ですら、途方に暮れてしまうことが描かれます。
こういう状況下(時間がない・大勢の命が危険に晒されてる・ヤンガー自身の意思と本人が持つ人権、等々)でやるべき事とは何か? 何が正しいのか? 観終わった後こそ観客に様々なテーマを投げ掛けます。私は、自分なりの答えを未だ見出せていません。一体誰が正しかったのか。