私は古市氏のベストセラー『1日30分を続けなさい!』を2007年に読んで以来、彼の著作を買い、読み続けてきた。彼の文章は具体的でわかりやすく面白い。しかし残念なことに、『1日30分を続けなさい!』が発売されてから5年の間、彼という人物に対する疑念は深まるばかりだった。
まず、彼は一体何者なのか、彼のアイデンティティは何かという疑問。英語教師?カウンセラー?作家?実業家?一体、今の彼は何を目指しているのだろう。本書によると、彼の英語力は自身が留学した当時から進歩していないということだから、少なくとも英語教育に身を捧げるつもりはなさそうだ。さしずめ「説教師」というところだろうか。しかし、彼が自身を「成功者」と定義し、人生戦略を説教するにあたって、40代前半という年齢はあまりに若すぎないだろうか。彼も今後の人生で様々な紆余曲折を味わっていくはずであり、人生を達観して語るにはいささか早すぎるのではないか。
次に彼の商売に対する不信感。私は彼のメールマガジンに登録しているが、送られてくるメールは霊感商法にそっくりである。「大変な時代が来ました。私の教材を買わないと大変なことになりますよ。」毎回送られてくるこの手の脅迫メールには辟易している。
著述活動が増えるごとに積み重なる矛盾点。『英会話学校に行かない人ほど、うまくなる』という本を著し、別の著作では「英会話学校などどこに通っても同じ」(通ってもほとんど意味がないから)と主張しながら、自身は英会話学校を経営するという節操のない行動(彼にとって生徒はカモなのだろうか?)。「テレビを見るな」とある著作で書いたと思えば、自身はかなりの時間テレビを見ているようで、メルマガ読者にも色々とテレビ番組、DVDを勧めてくる。「成功の原理原則は不変だからいくら自己啓発本を読んでも無駄。書かれていることは同じ。賢者は新しい情報を求めない」と言いつつ、自身はかなりのペースで自己啓発本を出版し、読むよう薦めてくる(結局主張を曲げてまで、著述業で金をかせぎたいだけなのだろうか?)。最初の著作でy(学習の成果)=a(熱意)×b(レベルとニーズに合った学習)×c(学習時間)という公式を提示したかと思えば、次作で自分の論述に都合のいいように、急にc(学習時間)を2乗に改変する…等々、揚げ足を取れば切りがない。
私は、結論として、「彼が一個人の経験則をもとに一般大衆に向けた人生論を語ること自体に限界があるのではないか」と思うようになってしまった。その点、精神科医、心理学者の著作には臨床の知見、学問的な裏づけがある分、論理も一貫していて、説得力がある。人生論の本で私のおすすめは、『「なりたい自分」になる心理学』(國分康孝)、『「今すぐできない!」自分を変える本』(斉藤茂太)である。これらの本で、人生を豊かに過ごすために重要なこととして述べられていることは、「自分を好きになること(自己受容すること)」、「自分のアイデンティティを定めること」、「ねばならぬ主義から自分を解放すること」、「ザ・ベストではなくマイ・ベストに徹して生きること」など。國分先生の言葉を借りれば、「神経症的な大学教授よりも健康な煙突掃除夫のほうがよい」のである。古市氏のように、終始自分を追い詰めていたら、一般大衆は燃え尽きてしまうだろう。古市氏はそのような(煙突掃除夫に代表されるような)一般大衆を「危機感のない連中」と軽蔑し、今後も説教し続けるだろう。そうやって彼は今後も金を稼ぐつもりなのだろうが、果たしてその説教を受けて我々は幸せになれるのだろうか。
もちろん、古市氏の経験則から学べることは非常に多い。まねできることは大いにまねすべきである。しかし、この本を読んで、深刻になって自分を追い詰める必要はない。自己嫌悪に陥り、精神を病むだけだ。あくまで気楽に読みたいものである。