さすがに羊羹は今までわずかに二度ばかり頂き物で口にする機会があっただけ(おいしかった)だけれど、もなかは子どもの頃から大好きで、吉祥寺に行けば必ず買う、飲み会のときでも買う(笑)、ほど、小ざさのファンなので、これは何をおいても読まねば、と手に取りました。
感動でした。著者のご父君である創業者の、まさに鬼気迫る姿といい、それを受け継ぐ稲垣さんの、とても真似のできないたゆまぬ努力といい、そして、戦争をはさんで変転してきた一族の運命といい、あの、なんともいえない上品でまろやかな味の陰にこんな歴史があったとは! それなのに、語り口は淡々として、とても清々しい。お客さんや障がいのある社員について語るときなど、ものごとを正面から受け止める著者の誠実さが随所に伺われます。読了して、「1坪で年商3億」は奇跡でもなんでもなく、これだけの努力と商売に対する真摯な姿勢の当然の結果なのだ、と思いました(とはいえそれが他でも容易に起こりうることとも思えませんが)。ビジネス書という範疇ではなく、広く広く多くのひとにおすすめできる本です。
おまけで非常に勝手な感想を二つ。読後感は西岡常一棟梁の
木に学べ―法隆寺・薬師寺の美 (小学館文庫)に近い気がしました。「炭火にかけた銅鍋で羊羹を練っているときに、ほんの一瞬、餡が紫色に輝くのです」「それはそれは美しい輝きで、小豆の”声”のようにも感じられます」まさに、名人の言、です。
創業者に大きな影響を与えた存在として新宿中村屋が言及されています。改めて我が国の歴史上端倪すべからざる存在だなと感心。