慶応応3年(1867)年10月14日徳川慶喜が大政奉還。その1ヶ月後の11月15日に、新しい日本を創るために奔走していた坂本龍馬が近江屋で斬殺された。襲った刺客が何者なのかは、当時から不明であった。著者は、幕府の見廻組だった「今井新郎」が、明治3年に裁判で供述した記録に基づき、彼と共に、数人の見廻組隊士が、龍馬を襲撃したと考えている。とりわけ実際に龍馬を斬ったと思われるのは、見廻組隊士、「桂早之助」だった。彼は、翌年鳥羽伏見の戦いで鉄砲にあたり28才で戦死。小太刀の名人で、襲撃には,室内での斬り合いを予想して、刀身僅か42.1cmの脇差しを使った。
歴史の中に突如閃光の様に現れ、一瞬にして消える刺客。残された記録から、暗闇に消えたその犯人を捜すも痛快です。しかし本書は探偵ごっこに終わらずに、龍馬を取り巻いていた錯綜した政治勢力、その中で彼がどう行動していたかが、はっきり描かれています。なぜ単純に犯人が特定できなかったのかが、よくわかります。それらの政治的な勢力を越えた所で、しかし調整に尽くした龍馬。また大名を知事として生かそうという龍馬の藩改革の案、「藩論」が最後にあります。これらを読むと、龍馬ファンならずとも龍馬贔屓になります。
巻末に年表があり、幕末の僅かな期間に、多くの人が暗殺されているのを見て、あらためて驚きました。血生臭い同胞同士の争いの時代を歴史的に経験したことを、忘れてはいけないと思いました。