新宿鮫に短編があることを最近知った。本書はそればかり集めたものではなく、警察小説の短編集で競作になっている。大沢の他に、今野敏、白川道、永瀬隼介、乃南アサと実力者揃いなので期待した。
「雷鳴」(大沢):新宿のバーで、登場人物は鮫島とチンピラとバーテンの3人だけである。会話がメインで、ラストの切れ味が冴えている。さすが。
「刑事調査官」(今野):ベテラン刑事調査官・ヘイさんのキャラクターが見事で、若手と絡ませた会話が楽しく深い。脂がのりきっている。
「誰がために」(白川):少年法に保護された加害者側と犯罪被害者家族側との対比を際立たせ、痛切な余韻を残す。沁みる。タイトルの「鼓動」という字句があったのは本作だけだ。
「ロシアン・トラップ」(永瀬):警察小説というより、ノワールの筆致でグイグイ引っ張っていき、読み応えがあるが、短編向きではないのかも。
「とどろきセブン」(乃南):等々力警察署管内の交番勤務の若いおまわりさんの聖大は、ひょんな事から、地域の文恵さん・植木屋・棟梁・梶本電気・ナヲさん・シェフ・看板屋の占い師の老人7人と親交を結ぶ事になり、老人たちは手柄をたてさせるべく地域の情報をメールで送るようになる。そのコードネームが「とどろきセブン」なのだ。
短編というより中篇といってもよく、最初は事件らしい事件も起こらず、やや冗長な感じがしたが、新宿署管内のような繁華街の忙しさがない分、のんびりとした日常の出来事を読んでいく過程で、いつの間にかその心地よさに慣れてくる。
競作小説の良さは、ふだんなら手に取らない「とどろきセブン」のような小説を読めたことだ。後ろの解題を読むと、聖大モノの短編集が出ているらしい。読者が要望したからだろうな。うまい。