飼猫クロが病死し、東由多加と柳美里が同棲生活を解消する発端となった95年12月17日が「黒」、東が末期癌で入院し、死を迎え、焼場に送られるまで(2000年春)が「白」、焼場から現在に至るまでの長い年月が「緑」。全て東の語りという形式による。東の語る柳、を描く柳。別れ際の罵詈雑言、柳15歳からの生々しい関係の回想、自分が加筆訂正しなければ「柳美里」の小説作品はなく、共同執筆しているのだという自負。ここまでを描き切る凄まじさは、柳美里以外にはあり得ない。「命」他の作品で読んできた設定ではあっても、ぐいぐい読ませる。
また「白」における癌の痛み、薬物の幻覚から混乱し混濁しては正常に戻る繰り返しの中から死に至り、死後も続く独白は、平成の太宰治とも言えるし、高橋源一郎が「文学は本当の死を描いていない」と書いたことへの挑戦状とも読める。
ただ「緑」における死後の独白は一気にトーンダウンして、柳の息子「たけはるくん」を見守る祖父といった趣だし、柳の現在の恋人に対しての確執も概念的で淡泊。「千の風〜」的なありきたりな印象だ。結局は“おれの知らない言葉”で書かれた“柳美里の小説”が始まるのだという解放感が書きたかったのか?その解放から生れる今後の“柳美里の小説”を読みたい。