かつて読んだときは、乱歩のおどろおどろしたところが驚くほどなく、タイトルから連想した内容との乖離に拍子抜けしたものだった。
しかし、乱歩の作品、特に通俗物全てを読み尽くしたあとに読んでみてほしい。
すると、このスッキリとした、乱歩特有の陰惨さが少ない描写が本作にはピッタリであることが分かる。
それもまた、ある意味では乱歩の持ち味のひとつであり、その描写によってストーリーテリングを素直に楽しむ事が出来る、ということに気づく。
ストーリーは良く知られているように、女賊黒蜥蜴と名探偵明智の虚々実々の対決、と一言で説明できる。
細かい矛盾や齟齬はいくらでも指摘できるし、サスペンスも物足りない。
だが、それを補って余りある黒蜥蜴の魅力だ。
同様のことは、「黄金仮面」でも言えるだろう。
魅力的な敵役の存在で、明智が引き立つことになる。
深作映画版も、三島由紀夫脚本、丸山明宏(三輪明宏)主演で、とても良いムードだった。
三島も出演していたし。
京マチ子主演の方は、ミュージカル仕立てで、今ひとつ原作の雰囲気を出し切れていなかったが。
乱歩得意の陰惨な描写が全くない、という訳ではない。
だが、この控えめなところが、乱歩通俗作品の中では最も一般に好まれている要因なのであろう。
若いときには物足りなかったものが、ある程度としを取ってからだとちょうど良い、ということはよくあることだ。
本書の評価は、読者の成長とともに変化するものなのかもしれない。