筆者のウェルズ恵子氏は、立命館大学文学部教授で、アメリカ民謡も含めて英米文学・文化を専門とする研究者です。
はじめに、では「黒人霊歌」の位置づけを確認しています。言葉をかえて言及してありますが、筆者にとって「黒人の受刑囚が強制労働させられながら仕事歌として口ずさんでいたもの。つまり隷属状態にある黒人の詩と歌声が、わたしにとって『黒人霊歌』の原点だ。労働現場で採取された歌は、感情を突き抜け醒めた雰囲気を持っている」と述べています。
序章以下では、様々な「黒人霊歌」の歌集を紹介しながら、そこで収録してある多くの詩を解説しています。「黒人霊歌」の成り立ちだけでなく、一つ一つの曲の解説も詳しく記してあり、教えられることが多い貴重な著作でした。昔歌った演奏曲も取り上げられており、その解説もまた興味深かった所です。
章立ては、序章 遠ざかる黒人霊歌 第1章 奴隷たちの歌 第2章 栄光への道のり 第3章 恐怖の鎖を解くために 第4章 ゴスペルソングのはじまり 第5章 喪失の痛みを抱いて、ブルーズへ 附章 黒人霊歌資料に表れたアメリカ、となっていました。
昔、大学合唱団の重要なレパートリーの一つが「黒人霊歌」でした。私も定演とジョイントで指揮をしたこともあり、思い出深い合唱のジャンルの一つです。そんな思い出もあり、この本を興味深く読みました。我々の頃は、本書のような専門書もなく、インターネットで情報を検索するといった便利なツールはありませんでした。当然の如く、曲の解釈も平板で、リズムとハーモニーと歌詞の発音に練習時間の多くが割かれていました。学生指揮者のレベルですと、曲の奥に流れている宗教感や曲の成り立ち、時代背景を踏まえた解釈などを、よく理解していなかったのが実情でした。当時、この本がもし出版されていたら、もっともっと深い理解が得られていたと思います。
このような専門の研究者の手による黒人霊歌の解説書を待ち望んでいました。訳詞も解説も丁寧で、有名な曲は網羅されています。全国の黒人霊歌の愛好家にとって、なくてはならない本の一つだと言えるでしょう。