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68 人中、62人の方が、「このレビューが参考になった」と投票しています。
5つ星のうち 5.0
原爆文学の、ではなく、文学の本質,
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レビュー対象商品: 黒い雨 (新潮文庫) (文庫)
原爆罹災者である重松・シゲ子夫婦と、「黒い雨」にうたれたその姪。作中に挿入される重松の手記を中心に、物語は展開する。手記は「あの」8月6日から、8月15日を最後に幕を閉じるのだが、原爆投下直後の描写は凄惨の一言に尽きる。私は、広島出身でも無ければ、「戦争を知らずに僕らは育った」という歌詞で有名なフォークソング『戦争を知らない子供たち』すら知らずに育った世代の人間だ。原爆に触れたのは、小学校の時分に漫画の『はだしのゲン』を読んだり、修学旅行で平和記念資料館に行って嘔吐したのが主な経験であるに過ぎない。そんな私にも「ただの文章」でもって迫ってくるのは、井伏鱒二という作家の力であり、その力量にはただ脱帽するばかりだ。 原爆をテーマとした文学作品は多々あり「原爆文学」というジャンルすら確立しているが、本書は単に原爆をテーマとした作品であることに止まらない。本作品には、「いかにも悪者」と言った風情のステロタイプな旧日本軍人は登場しない。主人公が「いかにも」な反米、戦争反対のメッセージを叫んだりもしない。よく描写されているのは庶民の生活であり、つまるところ「人間」である。本書は安っぽい反戦プロパガンダのダシではない。 だからこそ、本書は「ただの」原爆文学に止まらない名作として読み継がれ、そして読み継がれて行くのだろう。人間の本質に迫る一級の文学作品として味わって欲しい。
17 人中、16人の方が、「このレビューが参考になった」と投票しています。
5つ星のうち 5.0
風化してはいけない真実,
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レビュー対象商品: 黒い雨 (新潮文庫) (文庫)
私の故郷は広島県尾道市で広島市内からは70Km近く離れた場所です。それでも祖父母から8月6日の朝、西の空に黒い雲が立ち上っていたのが見えたという話を聞いたことがあります。また、広島県では他県に比べて原爆教育が盛んで、逆にそれが小学生だった私のトラウマとなり「原爆」という言葉にアレルギーがあったのも事実です。そのため井伏鱒二の本書は今まで手にとって読むことを避けていたのですが、今回本書を読んで、なぜもう少し早く読まなかったのだろうと反省しました。本書に書かれているのは反戦でも反核でもありません。戦争を決断した当時の政府への反感でもなく、原爆を投下した米国に対するバッシングでもありません。原爆の悲劇を強調し売り物にするのではなくその時起きた真実を日記の形で淡々と記しています。だかろこそこの悲劇を二度と繰り返してはならないと読み終えた後に強く感じることができたのかもしれません。すでに戦後60年以上が経過し、若い人たちのなかには8月6日や8月9日どころか8月15日ですらどのような日かも知らない人が多いといいます。このままこの真実を風化させてはいけません。前述したように本書では真実が述べられているだけでそれに対する著者の意見や見解は織り込まれていません。だからこそこのような本を小学生や中学生に積極的に読ませ、彼らがそこから何を感じとるかといった教育は非常に有効的ではないかと思われます。
22 人中、20人の方が、「このレビューが参考になった」と投票しています。
5つ星のうち 5.0
これはかなりイイ!,
By ninetails (兵庫県) - レビューをすべて見る
レビュー対象商品: 黒い雨 (新潮文庫) (文庫)
著名な文学作品でも意外と評価が星五つで維持されている作品は少ない。だから、名前だけは知っていたけれども、この作品のページを見たときにはちょっと驚いた。このレビューは12件目になるわけだが、11件の状態で星五つなのだから、これは相当高い方だ。それで食指を動かされて早速読んでみたのだが、他のレビューアーの方の高評価の原因が分かった。高名な文学者に対する媚びへつらいでも何でもなく、この作品はホントに素晴らしいものだ。黒い雨というタイトル。ちょっと詳しい人なら原爆の本だと分かるかも知れない。原爆症を背負った主人公の原爆当時への回顧がこの本のベース。原爆症だと疑いをかけられているために縁談がいつもうまくまとまらない養女扱いの矢須子のために自分の原爆日記と矢須子の日記を比較させようとするため、また、図書館司書との約束で日記を清書するため、などの動機付けがあって主人公の八月五日から終戦までの日記を辿っていく。抑揚のない重みのある文体である。爆心地から二キロの地点で被爆した主人公の第一人称で、原爆の悲惨な有様が殆ど主観を交えずに語られていく。当事者の語るそれは悲惨である。また、同時に原爆直後を生きた困窮しきった人達の生活も見えてくる。作品の終盤で黒い雨に打たれ、病魔にむしばまれていく矢須子の病状からも戦争の無惨さを思い知らされた。評価を続ければきりがないが、特あげておきたいのが、特定のイデオロギーにこの本が縛られていないこと。原爆関係の本は本当に嫌というくらい左翼っぽかったりするが、この本は本当にごく自然な形で原爆直後の様子が描かれている。そこから著者の無言のいたわりと、戦争への想いが語られているわけだが、誇張して暴論を振り回すのではなく、本当に日常的な観点から描かれているという点でこの本は本当に評価されるべきものだと思った。 日本人が心にとめておきたい一冊。そう評価していいと思う。
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