イイ!!短編を収録した一冊。
殺人に至るまでのプロセスが、人間的で黒くて素敵だ。
子供のときに読んだとしても、この小説の根底は分からなかったはず。
トリックを見破るとか、そういう類の構成ではない。
事件に至る過程の人間の心を描写した物語なので
“大人”向けの作品に仕上がっている。
人を愛したことがない人にはこの作品の良さは分からないと思う。
これは主に男女の愛(不倫が多い)をモチーフにした短編集だ。
読んでいて、愛情の微妙な掛け違えが生む不幸に
「それはあり得ることだよね」と同意できるのなら、
この物語において手を下した人物たちを批判することはできないと思う。
収録作品では『遭難』が一番好きだ。
何が起こるのだろうかと、わずかなページのなかでドキドキさせられる。
江田槙田の心理的駆け引きが見事。
次点が『坂道の家』。
キャバクラや風俗がアングラ商売として大きなマネーを握っているのは、
この作品当時(昭和35年)から変わっていなかったのだろうか。
この文化は続くのだろうか。この寺島のような男がいる限り。
殺意のきっかけは、日常の中にある。