《密室もの》に新機軸を打ち出した歴史的名作。
本作以前の《密室もの》は、侵入が不可能であるという状況を、いかに
空間的に突破するかといった観点のみで考えられてきた傾向があります。
そのため、人ならざるものがトリックとして用いられ、
どうしても日常から遊離した印象を与えがちでした。
しかし本作では、発想の転換がなされ「空間」以外の概念をトリックに組み込むことで、
人の心理的盲点を突き、《密室》となっても不自然ではない状況を創出し得ています。
また、本作では、中盤でもう一つ、不可能状況が発生します。
Tの字型をした廊下で、探偵たちが三方から曲者を
追い立てたのに、相手が忽然と消えてしまうというもの。
世に言う《鉤の手廊下の消失》です。
ただ、このトリックに関しては真相が分かると拍子抜け。
なんで探偵たちは、すぐに気づかなかったんだろうかと訝しく思ってしまいます(w
これらのトリック以外に、本作のセールスポイントをあげるとすると、
二人の探偵の推理対決という趣向、そして「意外な犯人」になるでしょう。
発想法や捜査法が対照的な二人の探偵の推理対決という趣向は、
一種の《多重解決》の興味があり、著者の苦労が偲ばれます。
そして「意外な犯人」の方なのですが、当時としてはかなり衝撃的だったと思います。
ただ、現在から見れば、類型化したひとつのパターンに過ぎず、
これだけで、サプライズとするのは苦しいところです。
しかし、それも演出次第であり、アレンジを加えれば、現在でも充分通用するものです。
本作は、読者に提示されるデータが不十分でフェアではないという批判もありますが、
それを補って余りあるミステリ的アイディアが溢れており、歴史的名作であることに
疑いはありません。