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たとえばロジェ・マルタン・デュ・ガール著『チボー家の人々』を題材にした表題作は、読書の醍醐味そのものを再発見させてくれる。主人公の女学生は、流れていく日々の生活の中で『チボー家の人々』をゆっくりと読破する。極端に言えばただそれだけの物語。しかし、だからこそ『黄色い本』には、本を読む習慣のある人間にとってたまらない感動が詰まっている。いい本に出合い、その世界の中に没入して読みふけり、ある種のせつなさと共に読み終える。この一連の流れの中で抱く読者の複雑な気持ちが、さりげないあの手この手によって見事に再現されてゆく様の、なんとみずみずしく美しいことか。
ほかに収録されているのは、縁の不思議を絶妙に描く2つの短編と、オリジナルとは視点を切り替えて描かれた冬野さほの短編漫画のカバー。どの内容も、一度読んだだけではとても味わいきれないほど奥が深い。よく理解できない箇所があっても、描写を手がかりに想像を駆使しつつ読み込めば、見えてくるものがある。そして、ああ、そうだったのか!と一度感動したら、また何度もじっくり読み返したくなる好循環。まさに一生ものの1冊。(横山雅啓)
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47 人中、44人の方が、「このレビューが参考になった」と投票しています。
5つ星のうち 5.0
新潟弁満載,
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レビュー対象商品: 黄色い本 (アフタヌーンKCデラックス (1488)) (コミック)
寡作ながら、色あせない作品を発表し続ける新潟県出身の高野文子さん。表題作「黄色い本」は新潟弁満載(たぶん、北蒲原郡五泉・安田あたりの言葉だと思います)で、ほかの地方の人が読んでわかるのかな?と思う言い回しもあります。主人公が就職を決意したメリヤスが、実際にこの地方では盛んで、このような細かいディテールに毎度ながら感心させられます。どこかの書評に「主人公は家に居場所がなく、読書に逃避し就職を決意」と書いてあったのですが、読んでみると、主人公がジャック・チボーに寄せる思いは思春期特有の甘い疎外感で、けして現代の家庭のような親子の断絶ではない。むしろ主人公の父は、娘とその愛書「チボー家の人々」を暖かく、そしてシャイな新潟県人らしく無骨に受け入れてます。主人公の心の動きはまさに「親離れ」しようとする思春期の少女の発達段階を示していると言えるのではないでしょうか。「黄色い本」は、題材となった「チボー家の人々」と同様、ながく読み継がれていく作品だと思います。
52 人中、47人の方が、「このレビューが参考になった」と投票しています。
5つ星のうち 5.0
「物語」の「物語」,
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レビュー対象商品: 黄色い本 (アフタヌーンKCデラックス (1488)) (コミック)
「黄色い本」は周囲の友人が就職や進学に頭を悩ます中、そうしたことにほとんど関心を持たずに延々と読書を続ける少女の姿を描いた作品です。主人公、田家実地子は『チボー家の人々』という、かなり量の多い本を黙々と読んでいくうちに文字通り「飲みこまれ」、作中の人物に囲まれて発言する風景を夢想し、時には物語の主役ジャックとの会話すらも行います。彼女を取り巻く現実の状況は移り変わっていきますが、それ以上に『チボー家』で変化し行く情勢のほうが彼女にとっては重く感じられるのです。 結末が近づいていく中で『チボー家』との日々はついに終盤にかかり、実地子はジャックのことを長年連れ添った友人であるかのように回想します。 「ジャック 家出をしたあなたがマルセイユの街を泣きそうになりながら歩いていたとき わたしがそのすぐ後を歩いていたのを知っていましたか?」 孤独の身で誰にも会うことなく歩いていたジャックの姿を知っているのは、『チボー家』の読者だけです。そして映画などと違い、一人で能動的に読み続けることを前提とする本は、読む者にごく個人的な体験を植えつけます。こうした「登場人物をずっと知っているのは読んでいた自分だけ」という感覚は、本にのめり込む愉しみを知っているには必ずや共感していただけるかと思います。ネタ晴らしになるので深くは書きませんが、私は最後の場面(とそのちょっと前)で、感慨深くなり思わず涙が浮かんできました。 この作品には「切り離された現実」という賛辞はあたらないでしょう。あるのは、徹底まで考え抜いて構築された、まるで現実であるかのような虚構だと思います。この、ページもそれほど多くない一作のために、どれほどの時間と労力が費やされたのか想像もつきません。約75ページの短編の中には、一コマたりとも無駄なコマは入っていません。 一介の読者である私は、再読を繰り返して著者の働きに応えようと思います。
5 人中、5人の方が、「このレビューが参考になった」と投票しています。
5つ星のうち 4.0
子供には読みこなせない作品,
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レビュー対象商品: 黄色い本 (アフタヌーンKCデラックス (1488)) (コミック)
どこにでもいる私の平凡な日常と本の中だけにある特別な私の世界が どのようにこの現実世界の中で 折り合い/また折り合わないのか 一切の説明を省き、描写した奇跡的な作品。 ある意味では極めて不親切な作品でもある。 しかし大人になることとは、何かを諦め続けることだと 哀しみをもって実感した大人には この上ない共感を持って受け入れられるであろう。 子供には読みこなせない作品である。
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