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本書も藤沢周平がもっとも脂の乗りきっていたころの短編4篇を集めたものだが、どの作品にも小説としての筋立ての面白さとともに、泣かせどころ、聞かせどころを備えたほろりとさせる勘所を押さえている。
武家社会というものが、現代のサラリーマンと企業の関係のように、階層社会でありあり、その中には更に、越え難い身分制度があることなどから、下級武士の生活は即ち、今の時代のサラリーマンの悲哀と通じるものもあるのが、時代小説の人気を支えている背景かとも思う。
表題の作品は、舅に追われる女性を救おうとしてその舅を切り殺してしまった剣士が主人公だ。その舅に追われていた女性には、不義密通を働いていたという噂があり、それに怒った舅がその女性を追っていた可能性が出てくる。舅の息子、即ち、追われていた女性の夫は、藩内随一の剣の使い手と名高い男で、近く江戸詰めから戻ってきたら、父の仇を討とうとしているかもしれないという噂がひろまる。こういった、背景の中に、可憐に見える女性が実は密通をしていたのかどうか、そうだとすると、殺すべきでない男を殺してしまったのではないかと煩悶する主人公、この事件の結末を好奇の目で見る藩内の人々といった状況が描写され、物語を盛り上げる。主人公は剣の腕を磨こうと必至になり、ある時、その天才剣士との対決の時がくるのだがーーーー。
それぞれの物語に、必ず女性が登場し、そこには時代小説における恋愛感情がほのかに語られる。なるほど、藤沢周平の世界には未だにファンが多いことが本書でも良く理解できる。
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