内容紹介
●本書の特徴
本書は,人類にとって最重要作物の一つである麦についての,栽培植物学,植物遺伝学,考古学など幅広い分野から纏めた学術教養書である。本書は5部15章から構成されている。 第I部では本書を読み進めるにあたっての基礎知識を概説する。第1章では,日欧二つの地域での違いを紹介し,「ムギ」とは何かを明らかにする。第2章では,古文書の調査から明らかになったムギの歴史を紹介する。
第II部では麦作農耕の起源について解説する。第3章では,栽培コムギや野生コムギの間での交雑と染色体数の倍加により倍数性進化をとげたコムギの祖先種や起源地について紹介する。第4章では,どんな環境で農耕が始められたのか? どのように発展したのか? 農耕によってムギや環境はどう変わったのか? について解説する。第5章では,遺跡から出土した石器の分析を通して西アジアの初期農耕について紹介する。
第3部では,その伝播の歴史をシルクロードを舞台に雄大に解説する。第6章では,シルクロード周辺地域(トルコ~中国)のコムギを用いた分子遺伝研究から明らかになったコムギの伝播経路を,現地でのフィールド調査も含めて紹介する。第7章では,中国新疆で発見された小河墓遺跡出土種子のDNA分析によりシルクロードを伝播したコムギの具体像を再現した成果を紹介する。第8章では,各種の遺伝研究や最近のDNA解析の結果も踏まえて,オオムギの進化と伝播について紹介する。第9章では,コムギ畑の随伴雑草であるライムギがコムギ栽培の拡大とともに中央アジア各地に広がり,寒い地域においてコムギに代わる作物として進化したことを紹介する。第10章では,日本人には馴染みの薄いエンバクの紹介から始まり,その起源と進化を紹介する。第11章では,ムギに擬態するドクムギの,栽培ムギおよびそれを栽培する人間との関わりを紹介し,世界各地で採集したドクムギの遺伝的解析からその起源や伝播経路を推定する。
第4部で文化としての麦の利用を紹介する。第12章では,世界各地でのパンづくりを支
えている酵母から,人とコムギ,環境との関わりを紹介する。第13章では,ヨーロッパスペルタコムギなどの皮性コムギが未だに栽培されている地域における,民族・文化との深い関わりと作物および品種多様性との関係を紹介する。
第5部では多様性の危機を訴える。第14章では,栽培植物とその近縁植物の関係,遺伝資源としての重要性,そしてその保全について紹介する。コムギとその近縁種について,どのような種があるかや,収集と保存の歴史についても述べる。第15章では,自生地における野生種の多様性,遺伝子交流の事例を,日本の野生ムギ類も交えて紹介し,生息地そのものを遺伝資源としてとらえ保存する自生地保存の重要性を訴える。
著者について
●編者紹介
佐藤洋一郎(さとう よういちろう)
1952年生まれ
京都大学大学院農学研究科修士課程修了
総合地球環境学研究所副所長・教授 農学博士
序章執筆
主 著 塩の文明誌(共著,NHKブックス,2009),イネの歴史(学術選書,2008),よみがえる緑のシルクロード(岩波ジュニア新書,2006),稲の日本史(角川選書,2002)など
加藤 鎌司(かとう けんじ)
1958年生まれ
京都大学大学院農学研究科修士課程修了
岡山大学大学院自然科学研究科(農学系)教授 農学博士
第6章・コラム3「日本での麺類の起源と歴史」執筆
●執筆者紹介
有村 誠:東京文化財研究所文化遺産国際協力センター特別研究員(第5章執筆)
大田正次:福井県立大学生物資源学部教授(第13章執筆)
河原太八:京都大学大学院農学研究科准教授(第1章・第14章・コラム2「農耕/ヒト/コトバ」執筆)
笹沼恒男:山形大学農学部准教授(第15章執筆)
武田和義:岡山大学名誉教授(第8章執筆)
丹野研一:山口大学農学部助教(第4章執筆)
辻本 壽:鳥取大学農学部教授(第9章・コラム1「ゲノム分析」執筆)
富永 達:京都大学大学院農学研究科教授(第11章執筆)
長野宏子:岐阜大学教育学部教授(第12章執筆)
西田英隆:岡山大学大学院自然科学研究科助教(第7章執筆)
森 直樹:神戸大学大学院農学研究科准教授(第3章執筆)
森川利信:大阪府立大学大学院生命環境科学研究科准教授(第10章執筆)
吉村作治:サイバー大学学長(コラム4「エジプトビールの原風景」執筆)
渡部 武:東海大学文学部特認教授(第2章執筆)