著者の小説はこれが初読で、連載時に中一弥氏の挿絵めあてに読み始めたのですが
どっぷり引き込まれてしまい、ついに新聞契約を切る機会を失ってしまった作品です。
主人公の理野の心の揺れがあまりに身につまされすぎて、正直、いい年したおじさんが
手に職持つ女性の機微をなんでこんなにも真実味溢れて描けるのか空恐ろしいほど。
時代劇におけるリアリティというのは、往々にして変な現代臭とセットだったり
するのですが、この本では全くそういったものがありませんでした。
くどいように見えて淡々とし、文章自体が麗しくそして細やかです。
男性の視点だとまた違った感想もあるのでしょうが、仕事をしている女性は
一度読んでみて欲しいです。
ちなみに、この単行本では巻頭カラー4ページで、作中に出てくる実際の蒔絵作品の
写真が載っています。
その実物写真が素晴らしかったのでハードカバー購入を決めたのですが、挿絵……
挿絵の宿命とはいえ、1枚も載ってないのはもったいなさすぎる。
(収録してくれたら、定価プラス1000円、いや2000円でも買ったのに)
洒落た蒔絵意匠や根岸の風景、坂井泉水さんがモデルだという理野の凛とした人物画など、
いつか文庫化される際には収録されますように。