弟・襾鈴(あべる)の死の謎を追って、珂允(かいん)がたどり着いたのは、
現人神「大鏡」が君臨する、現代文明から隔絶された地図にない村だった。
珂允は、かつて弟が庚という名で大鏡に仕えていたことを知るのだが……。
珂允と襾鈴という名が示すように、本作では旧約聖書
を踏まえた、兄と弟の相克がテーマとなっています。
そして、本作を読み解く上で留意しなければならないは、その「語り」の構造。
基本的には珂允に焦点化した三人称の語りで進行していきますが、
その合間に、自由気儘な弟に憎しみを募らせる櫻花という兄の
視点で語られるパートと、「外」の世界に憧れる橘花という弟の
視点で語られるパートが、交互に挿入されます。
この「語り」に仕掛けられた、作者の超絶技巧を理解した時、読者は文字通り、
足元が崩れるような「世界」の崩壊の瞬間を目の当たりにすることになります。