日本近海の深海底から未知の鯨類と思われる死骸が発見され、その調査に乗り出す主人公の周りで奇怪な出来事が… と言った陰謀めいた雰囲気を前面に押しだす形で始まっていく本書であるが、そこに変なヒネリや思わせぶりでトリッキーな描写はなく、実に読み進めやすい軽妙な筆致で一方の主役「ダイマッコウ」へのアプローチが描かれていく。
手に取った当初の予想に反して、深海テーマに有りがちなハードサイエンスや未知動物に対する学術オタクで冗長な記述は見事に抑えられており、代わりに荒唐無稽で子供っぽいとも言える冒険アクション的な展開を随所に投入していくことで、堅苦しさの取れた楽しい読み物に仕上がっている。
反面、本来ならアクが強いという設定で描かれているはずの主要人物やその背景は非常に平坦で、魅力と印象に薄いのが難点。
各章の振り割りと場面転換にもあまり意味が感じられなく、メリハリと緊張感に乏しい進行は本の厚みに比して読後感に欠ける内容に感じられてしまうのが残念である。
また、上にも書いたようにハード寄りで割とアカデミックな内容を期待していた方には、かなり中途半端でむやみに道具立ての多い話に思えてしまうことだろう。