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職人が苦労して修業してきたから鮨が美味くなる、というものでは決して無かろう。がしかし、これまで美味いと思っていた鮨に、鮨そのもの以外の新たな情報を教えられると、いっそう味わい深く感じるというのもまた事実である。私は「新橋鶴八」の頁は、涙無くしては読めなかった。
興味深いのは著者がこのタイトルを気に入らず、最後まで「男たちはなぜ鮨屋になったのか」というものに固執していたのに対し、山本益博が出版予定していた「次郎本」のタイトルとして「鮨を極める」を考えており、先を越されて泣く泣く「至福のすし」に変更したというエピソード。両者のスタンス、センスの違いが垣間見えて面白い。
本書は当初、「男たちはいかにして鮨職人となったか」というタイトルであったそうであるが、なるほど、読み進むうちに職人の一人一人に物語があった。苦労に苦労を重ねたにもかかわらず、平然と鮨を握り、客と向かいあう姿は鮨を媒体に人生という道場を開いているようなものだ。特に、220ページに出てくる京都「松鮨」の件であるが、一年間の授業料を懐に著者が憧れの「松鮨」に出かけて、「卒業して社会人になって自分でお金が稼げるようになったらまた来なさい」と諭される場面はなんど読み返しても重みのある言葉である。
一見の客として鮨職人と対峙する様を著者や料理評論家の言葉で表現してあるが、緊張感の漂う段である。
各章の最後には親切に店の所在地や電話番号などが記載してあり、喫煙の可、不可までが紹介してあるのは嬉しい。
ただ、登場するのは全員、高級店の職人ばかりである。それは著者が無類のスシ好きで、基本的には著者が客として気に入った職人たちだけを描いているからだ。誰にでも固有の人生があるとはいえ、彼らのストーリーには重なる部分も多く、後半は少々飽きた。グルメガイドブックとして読む者にはこれでいいのかもしれないが、大成功を収めた回転ズシの社長兼職人とか、邪道と呼ばれるようなスシを積極的につくっている職人とか、私としてはそんなバラエティがほしかった。
またスシ屋での客の振舞いはこうあるべきといった著者の信条や、本筋とは関係のない著名人たちと著者との交流話などがどうも鼻につき、もう一歩登場人物たちの人生に私は入っていけなかった。残念である。
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