新書という制約の中で「今日の魯迅」が極めてよくまとめられていると感じた。藤井氏のこれまでの著作「魯迅事典」やNHK講座テキスト、更に光文社文庫の魯迅著作翻訳についての説明と重複している部分が確かにあるが、それほど気にならなかった。本書の意義は、多数の魯迅作品を翻訳してきた竹内好氏の翻訳に対する疑問を改めて提示したことだろう。藤井氏は竹内訳を土着化と意訳と表現しているが、要は未熟、不正確な翻訳だっということだろう。「大竹内」に対する藤井氏のこの指摘は現在竹内氏の声望が益々高まっている時に勇気のいることであろう。なお毛沢東による魯迅の聖人化について、折角魯迅の生活スタイルが中産階級そのものだったことを指摘するならその後の動き、魯迅批判についてもっとしっかり紹介して欲しかったという恨みが残る。なおレビュー筆者の年齢のせいか大江健三郎はともかく村上春樹における魯迅の受容については藤井氏の思い入れについてゆけなかったことを正直に告白しておきたい。