今出版界はちょっとした魯山人ブームと思いますがこれは
漫画「美味しんぼ」とTV番組「何でも鑑定団」の影響が大きいでしょう。
かくいう私も例外ではありません。
ですが本書を一読して思うのは魯山人は海原雄山的な理詰めでは
全くないということです。
本書は室町から江戸初期に至る陶器の名品を写真で見せながら魯山人
が評して行きますが、それは理論的な物ではなくて愛してやまない
美点の賛美であり、時として世評は高いけれども自分は評価しない物
の斬り捨てです。
「なんとも言えぬ美しさ、では評にならない」と書きながらそれ
以上のことが書けないもどかしい思いが伝わってきます。
また本書には柳宗悦やあるいは同時代の陶芸作家を名指しで罵倒する
文章がいくつか収められていますが、その怒りの正体が実ははっ
きりとはつかめないのです。※
いきおい読者の興味は真意を探るために、魯山人とはどういう人間だっ
たのかとかいう方向に強く引っ張られ、それはそれで楽しいのですが
まずは魯山人の書と陶器をなるべく思い込みの無い眼で観てみることから
魯山人の理解を始めるのがどうやらいいようです。
※(例えば本書中で一方では柳を罵倒していますが、他方では呉須を
「民芸に属するもの」として「だから美しい」と書いていたり、そもそも
冒頭から「自分は官展や茶人のためではなくて自分の店で使うための
食器を作るのが目的」というような意味のことを言っています。
なお「下手物」とは上等の物ではない民衆雑器のことで柳宗悦が民芸と
いう語を作る前に自ら「下手物の美」として喧伝したために流行した語
です。)
なお所収の各文章は主に自前の刊行物に発表した物や講演の聞き書きを平野雅章
がまとめた物で、時系列に沿わずに並べられています。戦中の物が無い
のは発言の機会が無かったのか、編集でカットされたのかよくわかりません。