著者の劉建輝氏は神戸大学の文学博士号を持ち、本書執筆時は国際日本文化研究センター助教授で、日中比較文学・文化の研究者です。
魔都とも呼ばれ、戦前は日本の多くの文化人に愛され、近年は中国経済躍進の中心地として高く評価されている上海を通してみて、日本知識人の近代体験を浮かび上がらせた好著です。
東洋の宝石箱のようなエキゾチックな上海の戦前の姿は、収められた豊富な写真によって当時の雰囲気を理解できますし、バンドも含めた旧の租界地区の西洋建築は今も格別美しい景観を形作っています。本書の4ページに20世紀前半の上海のフランス租界やイギリス租界の地図が掲載してあります。現代の上海と比較してみるともっと興味がわきますが。
茶館、娼婦、アヘン窟など、魔都と呼ばれた不思議な街に魅せられた近代の日本知識人の姿も本書で深く理解できますので、啓蒙書としてだけでなく、歴史読物としてもお勧めします。
前半部分は日本の幕末に当たる頃の上海と日本人の関係について書かれ、後半は明治以降の関わりについて書かれています。世界の列強による中国進出とともに、上海は東洋と西洋の文化の合流によってエキゾチックな香りを持つ街へと変遷しました。そのあたりの歴史的な経過もしっかりと説明してありますので、上海の成り立ちを深く知ることができます。
本書の内容は、
第1章 サムライたちの上海
第2章 東アジア情報ネットワークの誕生
第3章 日本の開国と上海
第4章 「ロマン」にかき立てられた明治人
第5章 魔都に耽溺した大正作家たち
第6章 「魔登都市」と昭和
という章立で構成されています。