初出誌の挿絵を全収録する創元推理文庫『乱歩傑作選』。こんな贅沢な事ができるのはドイルと乱歩ぐらいか。テキストの濃密さなら光文社版乱歩全集だが、挿絵の魅力も捨てがたい。本シリーズが着実に版を重ねているのも、この企画が支持を得ている証拠。
本作『魔術師』を手掛けたのは名手・岩田専太郎。
流石の出来映えによる美しい線画は明智小五郎のイメージを決定付けた。その後の『怪人二十面相』の小林秀恒、『少年探偵団』の梁川剛一の描く明智は完全に専太郎のそれを引継ぐものだ。『吸血鬼』『妖虫』、『人間豹』の冒頭も彼の筆による。
本編にも触れておこうか。『蜘蛛男』の大好評を受け、昭和5〜6年『講談倶楽部』に連載。
生首を乗せて隅田川を漂う獄門舟、時計塔文字盤上の断頭台、舞台で晒し者にされた裸の美女に迫る道化師のダンビラ、そして異様な地下室に映し出される生埋め地獄映画・・・。まさに波乱万丈、乱歩通俗長編の中でも一際息詰まる名場面の連続である。
福田得二郎への連続予告と、冒頭・終盤の密室殺人の秘密にもう少し納得いくオチがあればと思うが、それを補って余りある乱歩の「コレデモカ コレデモカ」な筆の粘りが一気呵成に読ませてくれる。
『乱歩傑作選』は20巻以来音沙汰が無いけれど、まだ通俗長編には『白髪鬼』『地獄の道化師』『偉大なる夢』等が残っている。もし次巻があるなら絶対『目羅博士』をプラスして『猟奇の果』をお願いしたい。両作とも専太郎画で初出誌も同じ事だし。