登録情報
|
この一件は殆ど知らなかった。内戦に近い。天狗党三千に対し佐幕派は幕府の支援を受け、6万。戦いに敗れた天狗党は京都に上洛しようとする。自らの正当性を朝廷に訴えるつもりなのだ。幕府はそれを追う。本書の中心はこの道行きにある。
天狗党は必ずしも一枚岩でなく、一部はかなり苛烈な行いをしたので、農民に嫌われている。追い討ちをかけるように冬の寒さが彼らを襲う。戦の描写よりもそれ以外の描写に重きがおかれていて(行軍の様子とか)そういう所がこの作品のリアルさに裏打ちを与えている気がする。
この乱の複雑な構図を最初の方で手際良くまとめている。神の視点で書かれた場合、説明だらけになりそうだが、そこを回想の形で、時折話し手の感情を交えて展開させているので非常に解りやすく、物語にすっと入っていける。
天狗党を追う幕府側の狡猾さはすさまじい。決して追いつかない、天狗党に手心を加えた藩には容赦なく罰を与え、少しでも抵抗したところには恩賞を与えていく。内戦の時も、成り行きで天狗党側に付くことになった大名に投降を促しておいて、してきたら切腹させたのだ。武田氏はあまり幕府の策略に触れていないが、それ故に恐ろしさが増幅されるという効果が出ている。
氏の口調は声高ではない。だからこそ語られた、歴史に流された人たちの姿に哀しさがこもっていた気がする。この乱で水戸藩は多くの優秀な人材を失うことになった。そのことを氏が非常に悔んでいる事が伝わってくる。静かな口調の作品は読者が行間まで読もうとするのだろう。天狗党の乱とは一体何だったのか。本書を読み終える頃には分かるだろう。
山田風太郎というと忍法とかそっち系列の人かと思っていたが、シリアスでリアリスティックなこういう作品も書けるところに、山田氏の芸域の広さを感じた。
|
この商品のクチコミ一覧
クチコミを検索
|
関連するクチコミ一覧
|