ヌルヌル事件を基点に関係者への取材を中心にまとめられた本書は、秋山成勲を韓国・日本両面から冷静に分析している。本人へのインタビューが一切ないのは、本書の内容に秋山サイドがなんらかの難色を示したからなのだろうか? 感情的に好きになれない選手である。桜庭戦後のふてぶてしさ、ネット上にあがる数々の疑惑、筆者は”私達の側”の疑問や嫌悪感に応える形で取材を進めながらも、安易な”嫌韓”や”バッシング”に流されることなく私達の知らない”向こう側”からの秋山像を浮き立たせている。韓国側関係者数人へのインタビューは貴重な証言であり、多様な韓国サイドの見解は読みごたえのある内容になっている。本書は新たな秋山像とヒールとしての秋山成勲の形成過程にある種の納得をもたらしてくれる。全体を通して秋山を冷静に、好意的に捉えた内容であり、秋山の証言がまったくないのが余計に不可解であった。もし秋山が不快感を示すとするなら韓国関係者のインタビュー部分であろうか。私は読み終えた後でも秋山成勲を好きにはなれなかった。だが彼に対して同情とも共感とも言い切れない不思議な読後感を伴った作品である。本書を読んだところで秋山を応援する気にはなれないかもしれない。しかし、秋山成勲を理解する手助けにはなりうるだろう。アンチ秋山であるならば、なおのこと読んで損はないだろう。水道橋博士が「筆力あり」と書いたように、一気に読ませるクオリティーの高さも本書の魅力となっている。
なお著者はライターの傍ら、日本プロ麻雀協会に所属し、完成された麻雀から「天才」とも噂されるプロ雀士、田中太陽氏である。雀士独特の押し引きの攻防が随所に見られ、韓国、日本側のワンサイドな意見に流されることのない、地に足のついたバランス感覚に麻雀ファンならば思わずニヤリとしてしまう。(現在は日本プロ麻雀協会を脱退しフリープロとして活動されているようだ)